アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#121
2023.06

ゴミを「自分ごと」化する

一人ひとりの自分ごとを重ね合わせる 高知で服部雄一郎さんに聞く
3)「ばらまき畑」のゼロウェイスト

2年前、新しく建てた服部さん一家の家は、物部川がゆったりと流れる風光明媚な地域の一角、美しい自然に囲まれた田園地帯にある。同年代で生き方や感性も重なる設計士と大工の友人に相談して、できるかぎりサステナブルが実現するように工夫しながら建てた木の家だ。大きな窓と縁側が開放的で、シンプルな佇まい。広々とした庭には山野草やハーブ、野菜に果樹など多様な植物が育つ。ふたりはここを「ばらまき畑」と呼んでいる。

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小高い丘に建つ、木造の家が目印。家の前には野菜、果樹、野花が自由に咲く「ばらまき畑」がひろがっている / イメージする種類ごとに区画した野菜畑ではなく、散り散りに種や苗を植えてみた実験的な畑。よく見ると麦、ブロッコリー、壬生菜……と、こんなところに実っていた! という発見も楽しい

———もともと僕は妻と違って土いじりが嫌いで、人参育てて何になるの、買えばいいじゃんと思ってたんです。ひとつには、庭づくりが難しいと思い込んでいたんですよね。いい加減でも結構育つってわかったらすごく敷居が下がって、最近は楽しい。いまは果樹をたくさん植えています。レモンとかりんご、さくらんぼ、プラムとかアーモンドとかいろいろ。それが育ってきたら、だいぶ景色が変わってくるのが楽しみです。日陰ができて雑草も生えにくくなるし。歳をとったらどこまでできるかもわからないので、楽に庭を維持できるかたちを見つけている途中です。

越してきた当初、この土地はユンボで整地されてかちかちになっていたという。服部さんは、ちょうどその時翻訳していたリジェネラティブ農業(環境再生型農業。自然環境をよりよい状態に再生することを目指す農法)の本『土を育てる』(ゲイブ・ブラウン、2022年、NHK出版)を参考に麦などの縁肥作物を播き、徐々に土壌を改善した。この土地でよく育つものだけを育て、育たないものはあきらめる。畑をやっている人の多い土地柄、近隣からゆずっていただくものも多く、野菜を買うことはほとんどない。ティータイムには飼っている鶏が毎日産む卵でケーキを焼いたり、庭で摘んだハーブでお茶を淹れたり。出たゴミは自作のコンポストで堆肥にし、畑に撒く。雨水利用や、高効率の太陽熱温水器も取り入れ、水やお湯もより循環型に。自分たちがやってみたいことだけで構成されたばらまき畑から生まれる循環は、まさに小さなエコビレッジだ。

ゼロウェイストにおいても、服部家が目指すのは、自分のなかから湧き出る好奇心、探究心、クリエイティビティを発揮してつくりだす、どこまでも楽しく心地よい暮らしだ。畑と同じく、家族同士でも互いに無理はしない、させない。例えば、学校関連のゴミなど、選択の余地が限られたり、Refuseしづらいものについてはすんなりあきらめる。子どもたちの誕生日には「体験のプレゼント」として、美味しいものが好きな長女にはコース料理とホテルに泊まっておしゃべり、魚好きの長男にはあんこうを1匹買って一緒に捌いて食べる、末っ子次男にはWEBチャンネルの契約期間や、本人が熱望するカップラーメンなどを贈ることも。

———子どもたちが欲しがるものは、変に我慢をさせず、頻度を減らすなど譲歩しています。おやつもうちでもつくるけど、子どもたちは市販のお菓子も食べたいし、週1回くらいは買うんです。でも袋菓子は特別な位置づけにして、それがあたりまえになったら困るというのはわかってもらう。そのさじ加減は家庭によって違うと思うんですけど、僕はゴミが出ることがスタンダードにならないだけでいい、そのぐらいが楽です。

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服部家のコンポストは庭にある。新聞や割り箸など、自然に還すことのできるものであれば一緒に箱に入れ、野草や糠を混ぜて発酵させるというおおらかなもの。「田舎は野菜くずも多いので、大きめのサイズが必要ですが、都市部ではもっとコンパクトにできると思います」と服部さん / 「畑にできたものを食べる、できなかったらあきらめる」が基本だが、なかでも力を入れて育てている生姜。高知の名産品でもあり、よく育ち、長持ちする / 飼育する鶏が産んだ卵を使ったケーキ。子どもたちもよくつくる。うつわは漆つぎして、気に入ったものを長く使う