3)夏フェスから伝統的な祭りへ 大胆な方向転換
わらじまつりは比較的新しい祭りだが、そもそも、その始まりは伝統的な神事でも、庶民の祭りでもない。商工会議所が各町内などに声をかけて開催した夏の催事で、大わらじは伝統的な冬の例祭「信夫三山暁まいり」から持ってきたものだった。
基本になる型がなかったから、年々の流行を取り入れるなど、その変化はめまぐるしかった。古関裕而が作曲したわらじ音頭も、さまざまにアレンジされる。平成以降はヒップホップ調に編曲され、「ダンシングそーだナイト」と名称も変わり、福島市内の各ダンススクールがオリジナルの衣裳で創作ダンスを披露するようになった。それはそれで盛り上がり、大友さんが「とても楽しそうな祭りだよ」と言うように、福島の夏フェス的なイベントとして親しまれていた。
しかし、東日本大震災後に事情は変わる。2012年に始まった「東北六魂祭」(*)に参加して、青森のねぶたや盛岡のさんさ祭り、仙台の青葉祭りなど、東北を代表する他の祭りと並ぶことになったのだ。
伝統に根ざし、その土地の風土と文化を伝えるような他県の祭りに対して、わらじまつりは異色だった。実行委員会のメンバーたちは、福島の歴史と現在を伝えられるような祭りに改革したい、と考えるようになった。
(*現在は東北絆まつりに改称)
そこで、白羽の矢が立ったのが大友良英さんだった。オファーのあった2014年、大友さんは『あまちゃん』の音楽で一躍有名となり、〈プロジェクトFUKUSHIMA!〉の盆踊りも手がけていた。改革を依頼するには、うってつけの人物だ。しかし、大友さんはいったんは断った。「音楽を編曲してほしい」という申し出に、わらじまつりも、その背景も知っていたからこそ、根本的に変えなければ意味がない、と思ったから。
5年後の2018年、実行委員会から、祭りを全面的に改革する総合プロデューサーに、と再度の依頼があった。条件は、大わらじを運び、『わらじ音頭』を残すこと。「福島の誇りを取り戻していく活動の一環」と捉えて、大友さんはこの役を引き受けた。
———これまでは、その時々の主導する人で変えられたんだよね。だから、良くも悪くも迷走した。浅草でサンバカーニバルが流行ったらサンバを取り入れた。ヒップホップ風のビートやダンスも取り入れた。でも、それはそれで全然よかった。みんな楽しそうだったから。震災がなければそのまま続けていたと思うよ。
でも、外に出ることになって、それでは恥ずかしい、となった。対外的に誇れる「自分たちの祭り」がほしくなった、ということだと思う。
祭りとは、観客があって成り立つものでもある。わらじまつりの改革は、見られることをあまり意識せず、内々で楽しんできた祭りを、対外的にひらいていくことでもあった。
———もっと背景を辿ると、「福島に誇りを持ちたい」っていうことだと思う。震災後の一番のダメージは「福島に誇りを持てなくなったこと」だと思っているから。
震災前は、空気が綺麗なこととか野菜がおいしいことや、なるべく農薬を使っていない穀物を生産していることが、意識はしてなくても福島の人たちの「誇り」を支えていたんだと思うんです。
その誇りが震災で崩れてしまった。例えば穀物だったら、除染して全量検査をして丁寧にひとつ、ひとつ作物を作っていくことでしか誇りは取り戻せない。農家は実際にものすごい努力でそれをやってるわけです。だから文化もそれを見習わなくてはって思いました。「福島は元気だ」的なイメージ戦略も必要かもですが、それでは「誇り」は取り戻せない。自分達の文化を自分たちでつくっていったんだって実感がないとダメだと思ったんです。
だからわらじまつりの改革も引き受けました。誇りを取り戻すために、自分達で文化を作る良いチャンスだと思ったんです。時間をかけて自分たちでつくっていくしかない。祭りはそのための最高の舞台だと思います。
大友さんはオルタナティブな〈プロジェクトFUKUSHIMA!〉も、公的なわらじまつりも「福島の誇りを取り戻す」という点では同じだと捉えている。そして、祭りの方向付けはできたとしても、それを持続していくには、福島のみんなが自力で育てていくしかない。新しく始めるのであれば、それくらいの心意気でやってほしいと思っていた。
———仙台の「仙台・青葉まつり」(*)が新しいまつりの成功例だなって。平成の少し前にできた「仙台すずめ踊り」を踊るんだけど、古い文書に「伊達政宗の前で踊った」っていう文言が残っているそうで、そのすずめ踊りを伝えていた数少ない人から聞き取ってリミックスして、今の子達が楽しく踊れる新しい踊りにしたそうで、そんな感じの改革ができればいいのかなって。ただね、福島には伊達政宗のようなみんなの誇りになるようなアイコンがない。だから悩みました。
*仙台青葉まつりは仙台で初夏に行われる祭りで、仙台すずめ踊りが披露される。東北絆まつりには「仙台七夕まつり」が参加し、会場各所に和紙の七夕飾りが置かれるが、パレードやステージには仙台すずめ踊りが出場している。