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アネモメトリ -風の手帖-

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#114
2022.11

21世紀型の祭りをつくる 

前編 福島わらじまつりの大改革 福島県福島市
1)わらじまつり2022 生演奏の太鼓隊と、誰もが楽しめる踊り

2022年8月5日。夕暮れ近く、国道13号信夫通りにはたくさんの人が集まってきていた。駅から東に歩くこと数分、信夫通りは福島市の大通りにあたる。見物客が位置取りをするなか、桃色に青、赤、山吹色など、色とりどりの法被姿が大勢行き交う。祭りが始まる前の、独特の高揚感があたりに満ちる。

吾妻通りとの交差点、開催エリアの中心あたりにコンパクトなステージが設けてある。その前には数十人の「太鼓隊」が控えている。太鼓はオレンジの法被、囃子方は山吹色の上着に袴姿の大楽団だ。リハーサルを終え、スタンバイしている。

その場に、ナレーションが流れてきた。むかし、むかしで始まるおはなしだ。おばあちゃんが孫に語って聞かせるような、温かく、ゆっくりした口調。ざわついた中にいても、自然と耳に入ってくる。信夫山に湖。大蛇、大百足……。この土地の地理や歴史をふまえて、新生わらじまつりのためにつくられた「わらじまつり物語」を読み上げる声だった。福島弁のイントネーションを適度に残し、語り聞かせるような朗読。何度も繰り返し、まるみのある声が流れる。

灯りがともる頃、威勢のよいかけ声とともに、数十人の担ぎ手が全長12メートルの大わらじを運んできた。祓い清めの「修祓式」が終わると、法螺貝が大きく吹き鳴らされる。
それを合図に、太鼓隊の演奏が始まった。長胴太鼓に締太鼓、かつぎ桶太鼓など、祭り太鼓からビートの効いた不思議なリズムが響く。囃子方が切れよく笛を吹き鳴らし、歌い手が順番に歌っていく。大人数による生演奏の熱気は独特だ。迫力の「わらじ音頭」に、参加者も観客もあっという間に取り込まれていく。

テンポの上がる音楽にあわせて、踊り手たちが信夫通りを、ハイペースで進む。わらでわっかをつくった「わらのわ」を手にした、上半身の動きが華やかだ。振り付けはわかりやすく、楽しく、自然と腕を回したくなる。圧倒的な生音と相まって、場が大いに盛り上がる。
20202年のわらじまつりは、こうして無事に始まった。
大友良英さんは、太鼓隊のそばで彼らの演奏を見守っていた。目立たぬように、後ろに横に、時には中に入りつつ、チャッパ(小さな合わせシンバルのような日本の楽器)を叩いて、テンポの遅れや乱れをそれとなく気づかせている。

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太鼓隊の人数はコロナ禍でずいぶん減ったが、老若男女が参加している / 踊りの衣裳も思い思いに、2019年からのアレンジが進む / 生演奏、生歌の臨場感