アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#110
2022.07

道後温泉アートプロジェクト 10年の取り組み

3 地域×アートの課題と実践を探る
3)アーティストと地元職人の「あいだ」を創造する
NINO inc. 二宮敏さん1

道後温泉のアートプロジェクトのもうひとりの中心人物が、松山市でクリエイティブチームNINO inc.を主宰するクリエイティブ・ディレクターの二宮敏さん。もっとローカルな仕事がしたいと考えていた時に、道後オンセナートのコンペを知り、「少しでも自分たちがよくしていけるなら」という気持ちで松波さんのチームに加わった。

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二宮敏さん

道後温泉のアートプロジェクトでは、アーティストの作品制作を担当する。アートの制作は初めてだったが、地元で制作運営チームを育てるというミッションを受けたスパイラルのみなさんから徹底的に教わった。もともと建築出身でグラフィックや看板制作の経験があったことも役に立ったという。NINOとスパイラルの信頼関係はその後の仕事にもつながっているという。

地元の制作運営チームの育成というミッションを引き継ぎ、ほとんどのアートの制作を地元の業者や職人と組んで行っている。1年という長い会期に耐える屋外作品の素材開発や、ビス1本打てない重要文化財での展示方法など、さまざまな事例の経験を積んで、技術の幅も広がった。NINOの仕事にはアーティストの信頼も厚く、海外での展示設営に松山からチームが呼ばれるほど。石本藤雄さんの国内巡回展では、すべての会場設営に松山のチームが赴いた。アーティストと作品を作り上げた経験は、地域の自信やプライドにもつながっている。

———生業になったひともいるし、元々技術を持っていた方々にも違う視点ができた。セラミックを触るときには指輪を外して手袋をするんですが、それをいまは地元の業者のおっちゃんたちがするんです。アーティストが職人さんを名前で呼んだり、完成した作品の前でおっちゃんたちがうれしそうに写真を撮っているのを見ると僕もうれしいです。

また、自分のイメージを信じてかたちにしようとするアーティストたちの真剣な態度には、いつも心を動かされる、という。保存修理工事中の道後温泉本館を覆う巨大な素屋根テント膜を作品化した大竹伸朗の《熱景 / NETSU-KEI》は、巨大なスケールと道後温泉本館の歴史の重みを背負いながら取り組む大竹の熱意は並々ならないものだったと振り返る。

———模型が完成した時のうれしそうな大竹さんは忘れられないです。あれだけの大きな作品なので、ここからああ見えるこう見える、他に見える場所はないかとか、それまですごく張り詰めたやり取りがありました。そうして完成したプランを実行委員会に見せたら、誰からも反対意見がでませんでした。そんなことは初めてでした。日本国内で、あのスケールでまちのなかに落ちていく作品ってなかなかないと思います。本当にいろいろな表情を見せてくれる作品です。各アーティストの方々といろんなドラマがあって、そこで学ばせてもらったことが自分の仕事にも活かされています。

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大竹伸朗《熱景 / NETSU-KEI》の模型。大竹さんの原寸大の原画ができあがった瞬間、「いまから取りに来てくれない?」と連絡が来た。さっそくご自宅に伺ったら、原画が並べてあった。その瞬間は忘れられないという。実際に絵柄をどう張り付けるかなどはNINOに任され、「すさまじい」3週間の制作を経て作品が設置された