アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#109
2022.06

道後温泉アートプロジェクト 10年の取り組み

2 地域×アートの課題と実践を探る
2)試行錯誤を重ねて、培われたもの 2015-2018

市民が道後温泉に足を運びやすくなった理由のひとつに、道後温泉自体のイメージが明るくなったこともある。2014年にアートプロジェクトがスタートして以来、道後温泉は昭和の団体旅行温泉街から女子旅に人気の温泉宿へと完全イメージチェンジを遂げた。楽天トラベルの「女性一人旅におすすめの温泉地ランキング」では2014年から5年連続で1位を獲得、さらにインバウンド効果も重なって、2019年からの本館保存修理工事が目前に迫っているにもかかわらず、まちはかつてない賑わいに沸いていた。

道後オンセナートは4年に1度大祭を行うサイクルとなって、2014年に次いで2018年にも開催された。その間の2015年から2017年までは、基本的に2014年のコンセプトを踏襲。2015年は蜷川実花、2016年は山口晃と1人のアーティストをフィーチャーするスタイル。2018年は25組のアーティスト作品を展示した。さらに地元の人や旅人も一緒にできること、楽しめることをつくろうとした。そのひとつが地元プロジェクト「クリープハイプ・尾崎世界観の歌詞の世界 in 道後」だった。尾崎世界観の歌詞から抽出したフレーズを道後のまちのあちこちにちりばめたプロジェクトで、とりわけ多くの若者の共感を呼んだ。さらにまちの歴史に着目し、まちと文学という新しい切り口を提示して、道後オンセナート2022の「マチコトバ」にもつながっていく。2014年以降の道後温泉のアートの歩みは、このまちとアートのあるべき関係性を模索する試行錯誤の年月だったといえるだろう。その土壌があって2019年以降のアートプロジェクトの飛躍へとつながっていく。

2019年、道後温泉本館の保存修理工事がとうとう始まり、2024年完成までの長い工事期間へ突入する。道後温泉はアーティストに日比野克彦を迎え、2年にわたるアートプロジェクトが始まる。ここからアートの風向きが少し変わった。それまで外からやってきていた風が、まちのなかからふき始めた。

道後温泉本館 エントランス陣幕(クレジットあり・加工不可)

©mika ninagawa,Courtesy of Tomio Koyama Gallery

©mika ninagawa,Courtesy of Tomio Koyama Gallery

©YAMAGUCHI Akira, Courtesy of Mizuma Art Gallery

©YAMAGUCHI Akira, Courtesy of Mizuma Art Gallery

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2015年の蜷川実花作品 / 2016年の山口晃作品。ともにそれぞれの作品が道後温泉本館をはじめ、まちの至るところに。山口晃の一部作品は今も展示され、観覧できる。写真は温泉旅館「ふなや」の詠風亭 / 2018年は尾崎世界観の歌詞がまちなかで立体的に展示され、反響を呼んだ

(上から)2015年の蜷川実花作品(2点)、2016年の山口晃作品(3点)。ともにそれぞれの作品が道後温泉本館をはじめ、まちの至るところに/ 山口晃の一部作品は今も展示され、観覧できる。上から4点目と5点目は温泉旅館「ふなや」の詠風亭(撮影:成田舞)/ 2018年は尾崎世界観の歌詞がまちなかで立体的に展示され、反響を呼んだ。