アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#107
2022.04

子どもが育つ、大人も育つ

5 子どもと大人と、みんなで学び合うために 京都市・にわにわ(後編)
4)たくさんの「小さな焚き火」が灯る社会に

小山田さんは、16年ほど前に結婚し、家族を持つことになった。大学に勤め始めるということも重なって、徐々に意識が教育に向かっていったという。その後、東日本大震災を経て、コミュニティの再生が必要となるなかで一番影響を受けているのが子どもたちであったのを見て、さらにその意識は強まったという。いま、くもん教室、そしてにわにわでは、60人の子どもを持っているような感覚でもある。彼らの未来を考えるのはすごい大事なことだと思うようになっている。

———でも、では何をすればいいのかと考えると、自分ができることは限られているなとも思います。政府の諮問委員会に呼ばれて「国の政策をどうしたらいいですか?」って聞かれても困ってしまう。規模が大きすぎるから。誰でも、自分1人の活動で社会全体をカバーするのは無理です。だから、地域ごとにさまざまな人によって多様な活動が行われて、緩やかに連携するのが大事だって思うんです。なんとなく基本方針が共通している人々が、つながりあって、それぞれのやり方でそれぞれの地域に合う形で動いていく。それが理想的かなって。「小さな焚き火」をたくさん灯していくように。

小山田さんは東日本大震災後に、宮城県女川町などの被災地を訪れ、焚き火をしながら地元の人と飲み語らう、ということを続けてきた。焚き火は小山田さんの活動を象徴するものの1つである。焚き火の前ではみな、気軽に話すことができ、また逆に沈黙することも気にならないのだと小山田さんは言う。そしてそこではさまざまな思考が緩やかに巡り、人と人が緩やかにつながれる。

この特集では、福岡、五城目町、京都という3つの場所でいま動いている取り組みを見つめてきた。きっと日本中にこうした取り組みが各地にいくつもあるのだろう。そのひとつひとつは、決して大きなものではない。しかし、そのような「小さな焚き火」だからこそ、そばにいる人たちをつなぎ、語らわせるのだろうと思う。そうした中で、子どもも、大人も、育っていく。その先にできてくる社会の力を信じたい。

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宮城県女川町での焚き火のようす(写真提供:小山田徹)

にわにわ
https://niwaniwa.org/?page_id=22
取材・文:近藤雄生(こんどう・ゆうき)
1976(昭和51)年東京都生れ。東京大学工学部卒業、同大学院修了。2003年、旅をしながら文章を書いて暮らそうと、結婚直後に妻とともに日本を発つ。 オーストラリア、東南アジア、中国、ユーラシア大陸で、約5年半の間、旅・定住を繰り返しながら月刊誌や週刊誌にルポルタージュなどを寄稿。2008年に帰国、以来京都市在住。著書に『遊牧夫婦』シリーズ(ミシマ社/角川文庫)、『旅に出よう』(岩波ジュニア新書)、吃音 伝えられないもどかしさ』(新潮社)、最新刊『まだ見ぬあの地へ 旅すること、書くこと、生きること』(産業編集センター)など。大谷大学/京都芸術大学非常勤講師、理系ライター集団「チーム・パスカル」メンバー。https://www.yukikondo.jp/
写真:吉田亮人(よしだ・あきひと)
1980年宮崎県生まれ。京都市在住。滋賀大学教育学部障害児学科卒業後、タイにて日本語教師として現地の大学に1年間勤務。帰国後、小学校教員として6年間勤務し、退職。2010年よりフリーの写真家として活動開始。雑誌・広告を中心に活動しながら、作品制作を行う。『ナショナルジオグラフィック日本版』をはじめ、主要雑誌に作品を発表すると共に、写真展も精力的に行う。日経ナショナルジオグラフィック写真賞ピープル部門最優秀賞(2016)、コニカミノルタ・フォトプレミオ年度大賞(2014)など、受賞多数。写真集『Brick Yard』『Tannery』『The Absence of Two』などを発行。http://www.akihito-yoshida.com
編集:浪花朱音(なにわ・あかね)
1992
年鳥取県生まれ。京都の編集プロダクションにて書籍や雑誌、フリーペーパーなどさまざまな媒体の編集・執筆に携わる。退職後は書店で働く傍らフリーランスの編集者・ライターとして独立。約3年のポーランド滞在を経て、2020年より滋賀県大津市在住。
ディレクション:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
編集と執筆。出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の編集・執筆を中心に、それらに関連した展示やイベント、文章表現や編集のワークショップ主宰など。編著に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。