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#295

アアルトとQueenと
― 早川克美

アアルトとQueenと

(2018.11.25公開)

出不精な自分としてはめずらしく活動的な時間を過ごしたので、そのときに徒然感じたことを今日は書きたいと思う。

まずはじめは「アアルト展」
アルヴァ・アアルトの生誕120周年を記念して、日本国内4会場を巡回する回顧展「アルヴァ・アアルト―もうひとつの自然」が開催されている。この記事が公開される25日(日)は最初の神奈川県立近代美術館・葉山での展覧会の最終日なので、気になった方は是非この後開催される展覧会にお運びいただきたい。

企画概要
今年で生誕120年となる建築家アルヴァ・アアルト(1898-1976)は、モダニズムに自然の要素を取り入れ、人々の暮らしをより良くする建築や家具デザインなどを追求しました。彼のパイミオのサナトリウム(1933)やマイレア邸(1939)は建築における有機的な形態と素材の優れた相互作用を体現し、《アームチェア 41 パイミオ》(1932)や《スツール 60》(1933)は近代家具の展開に画期的な役割を果たしました。そして、ガラス器《サヴォイ・ベース》(1936)は、フィンランド・デザインのシンボルになっています。アアルトの有機的な形態は、フィンランドの自然や風景から生まれたという従来の見方に加えて、本展では同時代の芸術家たちとの対話も重要であったという新しい視点を提示します。
ヴィトラ・デザイン・ミュージアムとアルヴァ・アアルト美術館が企画した本展は、20149月にドイツのヴァイル・アム・ラインにあるヴィトラ・デザイン・ミュージアムで始まり、スペインのバルセロナ、マドリード、デンマークのオールボー、フィンランドのヘルシンキ、フランスのパリで開催されてきた国際巡回展です。日本では約20年ぶりとなる本格的なアアルトの回顧展であり、オリジナルの図面や家具、照明器具、ガラス器、建築模型など約300点で、フィンランドでもっとも著名なこの建築家の生涯と作品を辿ります。
http://www.moma.pref.kanagawa.jp/exhibition/2018_aalto 2018.11.22閲覧)

2018128日(土)〜201923日(日)名古屋市美術館
2019216日(土)〜414日(日)東京ステーションギャラリー
2019427日(土)〜623日(日)青森県立美術館

日本で約20年ぶりとなる回顧展ともあって、展示内容の充実は目を見張るものがあった。オリジナルの図面や建築模型、家具、証明、ガラス器、をじっくりと見ることができた。

今回のテーマである「もうひとつの自然」とは、アアルトの世界観を指している。モダンデザインを基本としながらも、自然に学び、素材やフォルムに採り入れて、人間の営みのために、独自の有機的な造形と自然と共存する空間を実現している。手書きの図面やスケッチを見ていくと、彼の創造の軌跡を垣間見ることができる。建築のゾーニング、建物の構成、窓枠や天井などのパーツの構造、家具や照明、それぞれの「縮尺ごとのこだわり」が全体を構成し、作品を完成させている。「縮尺ごとのこだわり」とはディティールのことだ。美しさを実現するための技術との対話がディティールに結実している。

次に向かったのは映画館。「ボヘミアン・ラプソディ」を観に行った。
伝説のロックバンドQueenのボーカルで、1991年に45歳の若さでこの世を去ったフレディ・マーキュリーを描いた伝記ドラマである。華やかな活躍の裏にあった知られざるストーリーを描き出していた。
もちろんラストの素晴らしさは申し分ないのだが、私がしびれたのは「ボヘミアン・ラプソディ」「ウィ・ウィル・ロック・ユー」といった名曲がスタジオで生み出されるプロセスだった。常識や既成概念に逆らい、まさにディティールにこだわる探求の取り組みがそこにはあった。これでもかとこだわるフレディに対し、バンドメンバーの才能が化学反応を起こし、奇跡のような作品へと昇華していく。こちらも是非ご覧になっていただきたい。

とまぁ、こんな感じで、アアルトとQueenからディティールの重要性を見せつけられたのであった。ディティールは「細部」という意味だが、アアルトの作品を見ていくと、全体を構成するのもディティールに他ならないことをあらためて知ることができる。「神は細部に宿る(God is in the details)」は、ドイツのモダニズム建築家ミース・ファンデル・ローエが使った言葉だが、細部に宿った神こそが全体を司るとも言えるだろう。ディティールを意識しているか?と自分に問いかけて、新しい仕事に向き合いたいと誓う、晩秋の一日だった。