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アネモメトリ -風の手帖-

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#122


― 野村朋弘

sora_69

(2015.07.26公開)

Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes
Five hundred twenty-five thousand moments so dear
Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes
How do you measure, measure a year?

これは、ブロードウェイミュージカルの名作「RENT」の「Seasons of Love」冒頭の歌詞である。1年は52万5600分。時間は人々に等しく訪れる。更に秒に換算すれば3153万6000秒を過ごしていることとなる。
しかし、今年は3153万6001秒を過ごしているのをご存じだろうか。今年は閏秒が7月1日の9時前に挿入されている。そう、我々は昨年よりも1秒多くの時間を過ごしているのだ。
太陽暦では1年を365日としているが、地球の公転では365.24220日ある。この端数を調整するのを閏といい、4年ごと2月に閏日である29日を入れて調整する。
なぜ2月に追加するかというと、太陽暦のベースとなった古代ローマの暦は3月が年の初めであり、2月は年末であった。そのため途中の月に閏日を設定したという説がある。
この閏日を追加しても、端数はまだ生じてしまう。そのために閏秒が設定されている。
閏秒を世界時間として統一的に挿入する方式は、1972年からスタートし今年までで26回実施され、追加されているという。

翻って、太陽暦が採用される以前、1872(明治5年)まではどうであったのだろうか。暦は月の満ち欠けの1周期を1ヶ月とする太陰太陽暦(旧暦)が用いられ、1年は大の月は30日、小の月は29日あり、354日で巡っていた。太陰太陽暦と太陽暦とでは、毎年の日数が11日も差が生じる。太陰太陽暦の方が3年で33日も早く進むのである。約1ヶ月。そのため農業を中心に様々な支障があり、誤差を調整するために「閏月」が設定されていた。これによって季節と暦の調整を行うのである。閏月がある年は1年が13ヶ月あり、例えば七月の次に閏が設定されれば、閏七月と呼ばれる。決して12月の次に13月がある訳ではない。

閏月の運用は古代から行なわれており、19年に7回設定すると誤差が無いと知られていた。月相の周期が19年であることが知られていたことに因るもので、中国では春秋時代からこの周期の原理が理解されていたといわれる。
日本では『日本書紀』仲哀天皇の元年に記事に「閏十一月」とあるものの、仲哀天皇の実在は疑われており、実際には欽明天皇の頃から用いられていたようだ。

閏月は、季節と暦の誤差を解消するためのものだが、この調整の指標としては二十四節気が用いられた。二十四節気とは太陽の黄道を冬至から24等分したもので、各ポイントを太陽が通過する時の名称である。
冬至・小寒・大寒・立春・雨水・啓蟄・春分・清明・穀雨・立夏・小満・芒種・夏至・小暑・大暑・立秋・処暑・白露・秋分・寒露・霜降・立冬・小雪・大雪がそれにあたる。
これらは太陰太陽暦の1ヶ月に2つずつ割り振られているが、本来の月に含まれなくなると閏月が設定されていた。

但し、伊勢神宮の御師達が頒布する伊勢暦や、三島大社から頒布された三島暦など、様々な暦が流通しており、日本国内でも同じ年ながら日付が異なる場合も生じていた。今日では情報通信研究機構が日本の標準時を決定しており、インターネットを通じて月日や時間がパソコンでも同期されている。比して考えると、なんと緩やかな時間だったことか。仕事や原稿の〆切に追われている時になると、閏月を設定したいと思うのは、決して私だけではあるまい。梅雨も明け、夏本番となった今、閏七月はどこかにないものかと思いつつ筆を擱く。