アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

風を知るひと 自分の仕事は自分でつくる。日本全国に見る情熱ある開拓者を探して。

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#47

“才能”に障害のある・なしは関係ない! 福祉の現場から発信する芸術表現
― 亀井友美

(2016.10.05公開)

「オレたちひょうげん族」は、障害のあるひとたちによる、絵・詩・ものづくりの芸術創作活動だ。この活動を実施しているNPO法人スウィングで働く亀井友美さんは、大学生時代から10年以上、「障害者アート」に関わってきた。今では、週4日はスウィング、休日は滋賀や大阪など複数の施設で障害者による創作活動を支援している。彼女はなぜ、膨大な時間を費やし障害のあるひとたちの表現活動を支援するのだろうか。「何かをつくって表現することが、ひととひとのあいだにある“障害”を取り払う」という、亀井さんの思いを伺った。

フランス惣菜のテイクアウト専門店「ちょっとフランス」にて開催されたスウィングの展覧会『めっちゃフランス』。メンバーのnacoさんとXLさんの作品を展示し、オリジナルグッズを販売。

フランス惣菜のテイクアウト専門店「ちょっとフランス」にて開催されたスウィングの展覧会『めっちゃフランス』。メンバーのnacoさんとXLさんの作品を展示し、オリジナルグッズを販売。

オレたちひょうげん族グッズ 注染てぬぐい

スウィングのメンバーの作品をデザインに取り入れた「オレたちひょうげん族グッズ」。上から「注染てぬぐい」、「ポチ袋」。

スウィングのメンバーの作品をデザインに取り入れた「オレたちひょうげん族グッズ」。上から「注染てぬぐい」、「ポチ袋」

「オレたちひょうげん族」のアトリエ。

「オレたちひょうげん族」のアトリエ

———NPO法人スウィングではどんなお仕事をされているんですか?

NPO法人スウィングはなんらかの障害のあるひとたちが働く福祉施設です。清掃部隊「THE CLEANGERS」や紙箱を組み立てる「shiki OLIOLI」などの事業の中で、芸術創作活動を「オレたちひょうげん族」と呼んでいます。絵や詩をつくって、展覧会を開いたり、作品を様々なグッズにして販売しています。わたしの仕事は簡単に言うと、この活動のとりまとめ役です。毎日できあがってくる作品を整理して、展覧会の展示構成を考えています。

———なぜ「障害者アート」に関わるようになったのでしょうか。

京都造形芸術大学2年生のときに、大学のギャラリーでやっていた展覧会がきっかけです。絵自体も力強さが感じられて魅力的でしたし、机や椅子、画材などが制作の現場のようにディスプレイされていて、リラックスして絵を鑑賞できる空間も素敵でした。はじめはどんなひとが描いたかもよくわからずにみていたんです。作品の説明を読んでいるうちに、障害のあるひとが描いたものだと知りました。それ以来、こんな魅力的な絵を、障害のあるひとがどうやって制作しているのか興味を持つようになったんです。
そして大学3年生のとき、障害者の芸術表現活動を支援する「アート・サポーター派遣事業」を滋賀県社会福祉事業団が行っていることを知りました。2年生のとき大学のギャラリーでみたような作品が制作されている現場を訪れるチャンスだと思って、そこに応募して採用していただきました。それから5つほどの施設に派遣されて、制作環境を整えたり、時には一緒に絵を描いたり、展覧会をしたりしていました。

色々なものを合体させた絵を描くQさん。「オレたちひょうげん族」の草創期から活躍する。今年の5月には初の個展「Qの世界」を「恵文社一乗寺店」にて開催。

色々なものを合体させた絵を描くQさん。「オレたちひょうげん族」の草創期から活躍する。今年の5月には初の個展『Qの世界』を「恵文社一乗寺店」にて開催

———スウィングとは、あるイベントを通して出会ったそうですね。

大学を卒業してからは、こども芸術学科の研究室で副手として働きながら「アートと福祉の交流サロン くれよんカフェ」という活動を数名でやっていました。アートや福祉に興味がある学生や福祉施設で働いているスタッフさんたちと月に1回集まって、施設同士で活動の報告をしたり、困りごとがあったら相談し合ったりするんです。
この集まりで京都文化祭典連絡協議会が主催している京都文化祭典に出展することになりました。芸術表現に取り組んでいる福祉施設と一緒に、お客さんを呼んでワークショップをやろうと考えていたところ、スウィングが「オレたちひょうげん族」という活動をやっていること知ったんです。それで話をしたらスウィングも興味を示してくれて、一緒にイベントをすることになりました。
メインに取り上げたのは、Qさんという男性のメンバーです。Qさんは、いろんなものを合体させた絵を描くんです。例えばサメと武器とか、ギターと人間とか、とにかくすごい組み合わせで(笑)。わたしはすごく好きですね。そのQさんと一緒に参加者がいろんなものを合体させて変なものを描く「アレ+ソレ=…ワカラナイ!」というワークショップを開催しました。Qさんのちょっと変わった明るいキャラクターもあって、子どもたちを中心にお客さんからとても好評だったんです。2010年に実施したこのイベントがきっかけになって、わたしはスウィングで働くようになりました。

nacoさんの作品「吠える老チーター」。つくり手の内面を表すかのような力強さを感じさせる。

nacoさんの作品《吠える老チーター》。つくり手の内面を表すかのような力強さを感じさせる

障害のあるメンバーと一緒に親子で楽しめるスウィングのワークショップ。

子どもが楽しめるスウィングのワークショップ

———亀井さんのサポートによって、障害のあるひとたちにどんな変化がありますか。

制作のサポートをしていると、あるときそのひとが自分に合った表現方法を発見するときがあります。すると殻が破れたように、誰かの真似だったような絵が、個性のあるすごくいい絵になるんです。そこに障害のあるなしは関係ありませんが、その変化の幅は大きいと思います。
nacoさんという女性のメンバーは、最初はかわいいイラストやうさぎの絵を描いていました。それがどんどん違う絵になってきて、今はすごく激しいタッチでサバンナの野生動物などを描いています。これがnacoさんの作品だと知ったひとは、大抵みんな驚きます。彼女は一見、小柄で大人しい感じなんです。でも実はしっかりした芯を持っていて、そういった内面が絵にも表れていると感じます。作品としてもはじめのころより独創的で魅力がありますし、nacoさんの見た目の印象と作品の力強さのギャップにも惹きつけられるものがあります。
展覧会をするときも、ただ作品を展示するだけでなく、公開制作をしたり、Qさんの時のようなワークショップをしたりして、どんなひとがつくり手なのかわかるような企画をやっています。

———つくり手のことがわかる展覧会にするのはなぜでしょうか。

作品を展示するだけだと「障害があるのにすごいね」としか言ってもらえないことがあります。それは描いてるひとのことをあまり知らないから“障害がある”ということで、ひとくくりにされてしまっているんです。その状態で作品をみても、何かがわかった気になるだけです。直接スウィングのメンバーに会って話してもらえば、障害のあるなしというより「なんか、おもしろいおっちゃんやな」と感じて、親しみを持ってもらえるはずです。そうなれば作品の受け取り方ももっと広がると思うんです。
たしかに「オレたちひょうげん族」では、障害のあるメンバーが作品をつくっています。でも、あえてつくり手のことがわかる展覧会にすることで、「障害者アート」というイメージを取り払っていきたいんです。障害があるといっても、みんなそれぞれ違った「人」ですから、実際に触れ合って制作風景をみてみれば、彼らの作品1つの型にあてはまらないことがわかりますよ。さらに言えば、障害のあるひとを同じカテゴリーにあてはめることもできなくなると思います。

昨年の12月、大阪の「iTohen」にて開催された展覧会「BRUT?NOT ART BRUT?」。アール・ブリュットと呼ばれてひとくくりにされることに疑問符を投げかける。

昨年の12月、大阪の「iTohen」にて開催された展覧会『ART BRUT?NOT ART BRUT?』。アール・ブリュットと呼ばれてひとくくりにされることに疑問符を投げかける

———障害のあるひとたちの作品がアール・ブリュットやアウトサイダー・アートと言われていることについてどう思いますか?

アール・ブリュットの研究をしている方がスウィングに来て、「このひとの作品はアール・ブリュットの定義に当てはまっている」と言われました。その定義というのは、沈黙や孤独ということだったんですが、スウィングではそれは違うと思いました。ことばをうまくしゃべれないメンバーもいますが、言いたいことを身振り手振りで伝えられますし、とても仲のいい友達もいます。障害のあるひとたちは、絵を描いてひとを感動させたいとか、褒められたいといったことを意識していないとも言われていますがこれも違うと思います。さっきも話に出たnacoさんは「感動させたいと思って絵を描いてます」とはっきり言っていますし、Qさんは自分の絵がグッズになったら嬉しいらしくて、それが制作のモチベーションになっています。
だから疑問を持っていることに対して声をあげようと決めました。それで去年、1年を通してスウィングでは、昨今の「アール・ブリュット」ブームに疑問符を投げかける活動をしていたんです。『ART BRUT? NOT ART BRUT?』(アール・ブリュット ノット・アール・ブリュット)というタイトルをつけて展覧会をしましたし、こういう呼び方についてどう思うか福祉に関わっているひとに話を聞いたり、まちなかに出て1000人にアンケートしたりしました。もちろんスウィングの障害のあるメンバーとも話し合いました。
そうした活動を通して、やっぱり障害のあるひとの表現を1つにまとめるのはどうなのかなと改めて感じましたし、展覧会に来たひとには伝わったかなと思います。アール・ブリュットって響きがかっこいいから、そう言われるんだったらそれでもいいかという声もスウィングの中から出ましたけど(笑)。

———これまでの活動を通して、何かを表現することには、どんな効果があると感じましたか。

何かをつくって表現することが、ひととひとのあいだにある“障害”を取り払う効果もあると思います。挨拶ぐらいであまり会話がつづかなかったスウィングのメンバーも、絵を描くようになってからよく話をするようになりました。言いたいことが言えないもどかしさが感じられるひともいるんですが、そういう力も絵にぶつけているんです。そして表現する喜びは、そのひとの持つ雰囲気をより親しみやすいものにします。それが周りのひとにも伝わって、さらに触れ合えるようになるんじゃないでしょうか。
そうした経験から、将来的には障害のあるひともないひとも、子どももお年寄りも、いろんなひとが来て一緒に創作できる環境をつくりたいと思っています。何かをつくって表現するということが真ん中にあって、ひととひとが心の垣根を越えて触れ合える場所が理想です。まずはスウィングをはじめとした、わたしが働いている福祉施設を理想の場所に近づけていけたらと思います。

インタビュー・文 大迫知信
2016.08.05 スカイプにてインタビュー

【展覧会】XL is XL⇔4L@マジェルカ(東京)XL 搬入風景

亀井友美(かめい・ともみ)

1984年和歌山県海南市生まれ。京都造形芸術大学情報デザイン学科卒。大学在学中に偶然足を運んだ展覧会で、障害のあるひとたちによる芸術創作活動に出会う。その後、滋賀県社会福祉事業団が行う「アート・サポーター派遣事業」を通じて障害のあるひとたちの芸術創作活動をサポートする。大学卒業後は、同大学こども芸術学科の副手として働きながら「アートと福祉の交流サロン くれよんカフェ」を運営。現在はNPO法人スウィング(京都/北区)、わになろう(滋賀)などを中心にアート・サポーターとして福祉の現場で働き、表現することの喜びを伝えている。


Swing 12th Exhibition

SURVIVE / YADA RIKUO
平坦な戦場で僕らが生き延びること
The Beloved (Voices for Three Heads)- William Gibsonより

〇会期:2016.10.12(wed)→ 10.23(sun)
11:00 → 18:00 ※月・火休廊
〇会場:iTohen 大阪市北区本庄西2-14-18 富士ビル1F
Tel:06-6292-2812
Mail:ito_hen@skky.info
Web:http://www.skky.info/
〇お問合せ:NPO法人スウィング
京都市北区上賀茂南大路町19番地
Tel:075-712-7930
Mail:swing.npo@gaia.eonet.ne.jp
Web:http://www.swing-npo.com/
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大迫知信(おおさこ・とものぶ)

1984年生まれ。工業系の大学を卒業し、某電力会社の社員として発電所に勤務。その後、文章を書く仕事をしようと会社を辞め、京都造形芸術大学文芸表現学科に入学する。現在は関西でライターとして活動中。