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アネモメトリ -風の手帖-

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#100

アートとエンターテインメントを切り口に日本と韓国をつなぐ
― 山本れいみ

(2021.03.14公開)

ビルボードのチャート上位にあがってくるなど、今やその人気は世界のトップクラスであるK-POP。音楽やダンスパフォーマンスなど多方面で注目されるなか、山本れいみさんは、「エンターテインメントのなかにあるアート」に注目しただ。日本の音楽業界で長年培ったグッズ制作やクリエイティブディレクションのスキルや視点を活かした業務を請け負う「MONOWORKS」を運営しながら、韓国のエンターテインメントに組み込まれたアートの魅力を、さまざまなかたちで発信するプロジェクトも行っている。そんな、国を超え、互いの文化を交わらせる取り組みは、思いもよらぬかたちで繋がったり、発展し始めたりしているという。脈々と動きだした山本さんの活動についてうかがった。

SEOUL×TOKYO2020_1

———まず、韓国のエンターテイメントに注目したきっかけを教えてください。

この15年強は、音楽業界でコンサートグッズやアーティストグッズをつくる仕事をしてきました。コンサートで売っているペンライトTシャツなど音楽業界のなかで音ではない<ものづくり>でエンターテインメントに関わってきました。そんななかこの10年ぐらいは、勉強と情報収集も兼ねてあらゆるジャンルのグッズを個人的に研究分析していたんですよ。
そのなかでも、K-POPの人気がすごいことももちろん知っていたので、参考資料目的で、パッケージの仕様が珍しいCD買っていました。ページ数や印刷方法、素材も含めてチェックしていました。っかくなので音楽も聴いていましたが、よくわかりませんでした。
仕事としてもあまりK-POPにご縁がありませんでしたが、5万人を動員する東京ドーム公演を1週間埋められるK-POPアーティストは、音楽業界から見てもすごいことなので、どのような仕掛け方をしているのだろう、クリエイティブデザインはどう構築しているんだろう、と知りたくなったんです。これはちゃんと研究対象として向き合わないとダメだなと思い始めたのが6年前ぐらいで、意識的に注目するようになりました。

———研究対象として追うようになってから、最初の発見はなんだったのでしょうか。

たまたま見たBIGBANGミュージックビデオの衣装が全部シャネルだったり、家具とか小物がクロムハーツだったりしたのを見て、日本のエンターテインメントに関わっている人間からすると、驚きでした。日本で制作した場合、衣装を全部シャネルで集められるのだろうかと単純に気になりましたし、K-POPのクリエイティブのレベルが高すぎるなって感じました。
あきらかにミュージックビデオのクオリティは高く、センスも良い。ヘアメイク・スタイリングもかっこいい。ではパッケージはどうなんだろうって改めて気になり、本格的に韓国の輸入盤のCDやDVDを取り寄せ始め、日本のレーベルのものと比べたりしました。発見としては、韓国のものは印刷が綺麗で発色がよくて、紙質もこだわったものが多い。今の日本の音楽業界ではなかなか使えないような凝った仕様や紙、インクを使っていたので、この違いはなんなんだろう、とより興味を持ち始めました。

———そもそも日本のCD、「プラスチックのケースに歌詞カードとCDが入っている」というようなフォーマットですが、韓国はどんな感じでしたか?

韓国の作品を何十作品も取り寄せてみると、K-POP好きな方はご存知だと思いますが、日本でよく見かけるプラスチックケースの仕様ではなく、特殊形状のパッケージがほとんどです。さらによく見てみるとブックレットのデザインのなかにアートが組み込まれているものが多いことに気づいたんです。しかも、アートの組み込み方がものすごくセンスが良い。日本だと、1990年代にデザインや仕様にこだわったクリエイティブと音楽を融合した「渋谷系」と呼ばれるカルチャーがあって、信藤三雄さんやグルーヴィジョンズさんなどのパッケージがとても面白かったんですよね。だけど日本ではこの10年ぐらいはそういったものは少なくなってしまいましたが、韓国は未だにクリエイティブ的なチャレンジを感じるパッケージを多く見ることができます。そのなかにアート要素を感じるものが多くあります。
たくさん取り寄せたなかでもアート要素を強く感じた作品が、BIGBANGの『GOOD BOY』CDが付いているフォトブックです。

———メンバーの写真と合わせてストリートアートっぽいグラフティが描かれていますね。アートの組み合わせ方はさりげないけど、目を引きます。

これを見た時に、グラフィティアートとエンターテインメントのバランスや組み込み方が絶妙で衝撃を受けました。これを描いたグラフィティアーティストの作品のテイストが、自分のやりたいマインド、パッション的なものにとてもフィットしていて、自身のコンサートグッズを研究分析するプロジェクトのロゴをつくってもらいたいと思ったくらいです。このグラフィティアーティストを調べようとしましたが、作者のクレジット表記がなく、自分なりにいろいろ調べてみましたが突き止められませんでした。諦めきれず、ヤフー知恵袋に「このグラフィティを描いた方を知りませんか?」とBIGBANGのファンの方に向けて投稿もしてみましたが、見つかりませんでした(笑)。
1年ぐらい経ってから、韓国でデザインの仕事をしている日本人デザイナーと知り合って、どうしてもこのアーティストと仕事がしたいから知らないかと聞いたら、Instagramを使って30秒ぐらいで見つけてくれました(笑)。連絡先も判明したので「ロゴをつくってくれないか」とダメ元で翻訳ソフトを駆使しながらメールを送ったところ、「一度お会いしてお話しましょう。ソウルに来れますか?」と連絡が来たので、すぐに韓国に行きました。K-POPのアートワークを見て日本からオファーをくれたことをとても喜んでくれてロゴをつくってくれることになりました。

LIVE-GOODS-LABO_LOGO_1

できあがったのが、このロゴ。「LIVE GOODS LABO」という名義で、エンターテイメントグッズの研究分析を行うほか、「グッズをつくる視点」からの企画やセミナーの開催する

できあがったのが、このロゴ。「LIVE GOODS LABO」という名義で、エンターテイメントグッズの研究分析を行うほか、「グッズをつくる視点」からの企画やセミナーの開催する

———ここで立ち上がった「LIVE GOODS LABO」では、「グッズ」のクリエイティビティを実際にグッズ制作して見せる展覧会「LIVE GOODS LOVE」(2018を企画されていますね。架空のK-POPのガールズグループを想定し、モノを見せるという考えが新鮮でした。

口で説明するよりも実際にグッズとしてつくって見せた方が分かりやすいと思った時に、架空のアイドルグループを想定してアーティストのコンセプトも含め1から構築したほうが早いと思ったんです。ちょうど韓国のクリエイティブに興味を持ち始めたタイミングだったので、K-POPのガールズグループが世界デビューすることを想定して、グッズのプロがグッズ制作を前提としたアーティストのクリエイティブディレクションをするとどうなるかを形にしてみることにしました。内容は研究発表に近い個展となりました。

LIVE GOODS LABO_4

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会期中には、会場にあった壁を使ったライブペインティングも実施。プロジェクトのロゴを描いたグラフィティアーティストのLEODAV(*)氏を韓国から呼び寄せた。(2018.10/LIVE GOODS LABO_exihibition~LIVE GOODS LOVE~vol.1&オープニングイベントとして韓国のグラフィティアーティストLEODAV氏によるライブペイント開催at東京/新宿アートBar星男) *LEODAV…韓国を中心として多方面で活躍するグラフィティアーティスト。K-POPのアートワークにも数多く参加 https://www.instagram.com/leodav/ Instagram@leodav

会期中には、会場にあった壁を使ったライブペインティングも実施。プロジェクトのロゴを描いたグラフィティアーティストのLEODAV(*)氏を韓国から呼び寄せた。(2018.10/LIVE GOODS LABO_exihibition~LIVE GOODS LOVE~vol.1&オープニングイベントとして韓国のグラフィティアーティストLEODAV氏によるライブペイント開催at東京/新宿アートBar星男)
*LEODAV…韓国を中心として多方面で活躍するグラフィティアーティスト。K-POPのアートワークにも数多く参加
https://www.instagram.com/leodav/ Instagram:@leodav

———展覧会をきっかけに、さらなる発展はありましたか。

この展覧会のことが韓国のヤフーニュースに取り上げられたんです。韓国に住んでいる日本人の友達が「大変だよ! ヤフーニュースにグッズの展覧会のことが出てる!」と教えてくれて。この記事に、アートを通した「文化交流」という表現があって、とても驚きました。
もともとK-POPのファンでもないし韓国を意識したことがありません。ただ、エンターテインメントのグッズに関わる人間としてK-POPのクリエイティブに興味を持って、クリエイティブを追求することでファンの方が喜ぶグッズをつくりたいという思いから動いていたところ、どうも自分は「文化交流」しているらしいと気づくんです。

———文化交流。

ロゴをお願いした作家さん(韓国では、アーティストやデザイナーなどすべてのクリエイターを「作家(작가)」として総称する)も、まさか日本で活動をするとは思ってなかったそうで、たまたまわたしがK-POPのアートワークに感銘しオファーしたことで、このような文化交流が生まれました。ただ、わたしも作家さんも、この展覧会で一区切りするものだろうと思っていたところ、韓国の仁川市が主催するアートプロジェクト(仁川アートプラットフォーム)の展示に、このわたしとのアートを通した日韓交流が選ばれたと連絡がありました。毎年テーマがあり、何組かの作家が参加するアートプロジェクトらしく、2018年のテーマがたまたま「隣人」で、わたしとの交流はまさに「隣人」そのものだったので参加することになったそうです。展示では、わたしとの交流のいきさつを全部紹介してくれていて、メールのやりとりまで全部、パネルになっていました(笑)。文化交流として捉えてもらえたことでより実感が湧きました。

———互いに文化交流だと意識するようになったことで、見えてきたことはありますか?

仁川のアートプロジェクトの方々とディスカッションに参加をする機会があったのですが(韓国ではプロジェクトを実施する際に合宿形式でディスカッションをすることが多いそうです)、日本にいると意識したことがなかったアイデンティティーの違いが少なからずあることを感じました。今後、作家さんと何かものをつくっていくには、感じたことを話し合いながらお互いを理解していくことが大事だということを意識し始めました。少しでも不安な要素がある場合は、まわりくどい表現はせず、シンプルに分かりやすく韓国語と英語を駆使しながらコミュニケーションを取るように心がけるようになりました。

———一方、「SEOUL×TOKYO」という名義で、韓国のアートやカルチャーをエンターテインメントとして紹介するプロジェクトも始められています。文化交流という意味でも、さらに発展しているようにも感じますが。

LIVE GOODS LABOの活動から、よりK-POPに組み込まれているアートを「因数分解」して、ファンのひとに届けたいという気持ちが大きくなってきたので、アート的なアプローチに特化したプロジェクトとして「SEOUL×TOKYO」を始動しました。「KCON 2019 JAPAN」(国内最大級のK-POPのフェス。2019年は幕張メッセにて開催し約8万人を動員)にアートのブースとして出展。韓国から作家を招聘してライブペイントを実施するなど、K-POPのフィールドでは誰もやったことのないアートとエンターテインメントの切り取り方で展開していこうと思っています。

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K-CON では12メートルのグラフティウォールのスペースを依頼され、LEODAV氏のグラフィティチームを韓国から招聘し、3日間かけてのライブペインティングも行った。ブースの壁にはLEODAV氏のソウルにあるアトリエの実際の壁のデザインを実寸で再現(2019.5/K-CON 2019 JAPAN、幕張メッセ)

KCON では12メートルのグラフィティウォールのスペースを依頼され、LEODAV氏のグラフィティチームを韓国から招聘し、3日間かけてのライブペインティングも行った。ブースの壁にはLEODAV氏のソウルにあるアトリエの実際の壁のデザインを実寸で再現(2019.5/KCON 2019 JAPAN、幕張メッセ)

———昨年10月には、「SEOUL×TOKYO」が主催する展覧会が韓国文化院で行われました。一般的なアートギャラリーではなく、韓国に特化したスペースを会場として選ばれたのはなぜですか?

活動の規模が大きくなるにつれて、韓国の作家さんを紹介するにはどのようにアプローチをしていけばいいんだろう、と考えた時に、新宿にある「韓国文化院」が韓国コンテンツ全般を日本に紹介している窓口だと知って、相談に行きました。韓国文化院の1階に大きなギャラリーがあって、このスペースで何かできないかと思い企画書を出したところ採用されて、202010月に展示を開催させていただきました。韓国文化院のご担当者様をはじめ、韓国大使館の方もわたしのエンターテインメントからの韓国アートへのアプローチが新鮮だったようでとても喜んでいただきました。
その流れから、今年3月に、大阪にある駐大阪大韓民国総領事館 韓国文化院でも展示を開催させていただくことが決定しました。

———「マスク」をテーマに韓国のアートを紹介するという、まさにコロナ禍だからこそできる発想の企画ですね。

全部で16組の韓国の作家さんが参加してくれました。作風もバラバラですが、それぞれ個性が強くて面白い作風の作家さんが多く、作品からは「生命力が強い」とか「体幹が強い」という感覚を受けます。
日本ではコロナウイルス感染拡大に伴いコンサート等のイベントが全く開催できない状況が去年の2月ぐらいから始まりました。同じ時期にわたしが気になっている韓国の作家さんたちが、ご自身の作品にマスクをモチーフに取り入れ始めSNSで発信をしていたのですが、どの作品も前向きで柔軟で、たくましく、力強いメッセージを感じ、ぜひ、多くのひとに紹介したいと思いました。1人ずつSNSやメールで連絡を取り、展示をさせてもらうことができました。
コロナという特殊な状況下でエンターテインメントが自粛を余儀なくされて表現方法を模索しているなかでありながら、アートは国境を越え、コミュニケーションが形になった展示と言えます。

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東京で開催された際のようす。マスクアートでは韓国で活躍中の作家が参加。K-POPのアートワークに関わっている作家も多くバラエティーに富んだ作品が並ぶ。また日本人でK-POPのアーティストとしても活動するKENTA氏がゲスト作家として参加。「こんな時期でなければこれだけの作家の作品を一度に紹介することができなかった」と山本さん

東京新宿区にある韓国文化院で開催された際のようす。マスクアートでは韓国で活躍中の作家が参加。K-POPのアートワークに関わっている作家も多くバラエティーに富んだ作品が並ぶ。また日本人でK-POPのアーティストとしても活動するKENTA氏がゲスト作家として参加。「こんな時期でなければこれだけの作家の作品を一度に紹介することができなかった」と山本さん

———さらに、活動の幅が広がりそうな予感がします。今後の展望はどうでしょうか?

今、わたしが形にしているアートを通した文化交流はフィールドワークだと気付きました。またエンターテインメントとアートの関係性や日韓のアートの取り込み方の違いなどをアートマネージメントの学科があり韓国のアート・芸術とも交流が盛んな東京藝大の大学院で研究として整理してみたくなりました。
また、偶然にも韓国文化院も韓国好きが集まる新大久保も新宿区にあることも意味があるような気がしているので、<アート>をエンターテインメント的な切り口として発信することを軸に<地域>との関わりから地域活性ということも視野に入れ始めたころです。これからどのように拡がっていくか、自分でもとても楽しみです。

●information
山本さんがプロデューサーを務める、韓国のアート・デザインカルチャー(=K-ART)を発信する「SEOUL×TOKYO」による初の展覧会「SEOUL×TOKYO EXHIBITION Vol.1#withCORONA-COVID19-」が、大阪にて開催決定。韓国で活躍中のアート作家による、2020年のコロナ禍に制作された、「マスク」をモチーフとした作品が出展される。

SEOUL×TOKYO EXHIBITION Vol.1#withCORONA-COVID19-
日時/202139日(火)~319日(金)10:0018:00 314日(日)は休館
場所/駐大阪大韓民国総領事館 韓国文化院 ミリネギャラリー
住所/大阪市北区中崎2丁目4-2 4
入場料/無料
主催/株式会社MONOWORKS
後援/駐大阪韓国文化院

取材・文 浪花朱音
2021.02.03
 オンライン通話にてインタビュー

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山本れいみ(やまもと・れいみ)

株式会社MONOWORKS代表取締役
SEOUL×TOKYOプロデューサー
LIVE GOODS LABO所長
京都造形芸術大学芸術学部芸術教養学科卒業
論文/「ライブグッズの多面的デザインの役割:アイデンティティーのデザインと消費の関係」 LIVE GOODS LABOの取り組み~
http://g.kyoto-art.ac.jp/reports/2079/

20年以上に渡り音楽業界を中心に㈱ソニーミュージック・コミュニケーションズ(現ソニーミュージック・ソリューションズ)を始め、大手レコード会社、事務所、グッズ制作会社においてライブ・コンサートグッズ、アーティストグッズの企画制作に携わる。
またエンターテインメントにおけるファンビジネスの中でのMDビジネスの重要性を感じ、独立後からその役割と感覚的である業務の可視化を目的に研究分析・発信を行う。さらに2018年よりK-POPも研究対象として、そのクリエイティブワークから韓国アートに興味を持ち、エンターテインメントを通して韓国のアート&カルチャーを発信するプロジェクトも開始し、Exihibitionも開催。
エンターテインメント業界でのグッズ制作のスキルを活かした制作業務全般からビジュアル・デザインコーディネーション・ブランディング、ジャンルを問わずあらゆる分野でのグッズ制作業務、音楽芸能系専門学校でのグッズ制作分野の講師、業界向けセミナー、コンサルティングを展開。


浪花朱音(なにわ・あかね)

1992年鳥取県生まれ。京都造形芸術大学を卒業後、京都の編集プロダクションにて書籍や雑誌、フリーペーパーなどさまざまな媒体の編集・執筆に携わる。退職後は書店で働く傍らフリーランスの編集者・ライターとして独立。2017年より約3年のポーランド生活を経て帰国。現在はカルチャー系メディアでの執筆を中心に活動中。