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アネモメトリ -風の手帖-

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#54

さかさかさかの城下町
― 大分県杵築市

勘定場の坂、番所の坂、酢屋の坂、塩屋の坂、岩鼻の坂、飴屋の坂、紺屋町の坂、ひとつ屋の坂、久保の坂、清水寺の坂、射場の坂、富坂、天神坂、カブト石の坂。杵築(きつき)城下町はいくつもの坂に出会える場所です。
断崖にある杵築城は、目の前にある海をいつもじーっと眺めていて、船に乗ってやってくる誰かを待っているようにもみえるし、自分の麓にある城下町を見守っているようにもみえます。ここの城下町は一般的な城下町のように、お城の近くから上流武士の屋敷があり、中流、下流、町屋と続く形ではありません。北台南台というそれぞれの高台に武士の住居が立ち並び、その間にある谷間に商人町があるということから、サンドイッチ型の城下町と言われています。この山あり谷ありの地形のおかげで、情緒あるがあります。お酢を売っている酢屋さんの隣の坂だから「酢屋の坂」、塩を売っているから「塩屋の坂」。坂にその名がつくほど豪商たちが町を支えていたのでしょう。
北台、南台の武士たちや商人たちをつないできた坂道さんたちは、その大きな役割を認められ、今はこの町の主役に抜擢されています。
普段はとても静かなこの場所にも、年に数回行われるお祭りには多くの人たちがやって来ます。10月に開催され観月祭では、中秋の名月と共に浮かび上がる行燈が、より一層城下町を美しく演出してくれます。遠くから琴の音色が聞こえてくるのも、なんだか嬉しかったり。
カメラを片手に歩いていると、ふと着物を着た人に出会いました。履きなれていない草履を気にしながら、石畳の坂を一歩ずつ上って来た姿をみて「やっぱりこの景色には着物が似合うなぁ」としみじみ感じてしまいます。時空を越えて江戸の城下町に身も心も想いを寄せる人たちもいて、南台の武家屋敷跡に出来た新しいパン屋さんでお気に入りのパンを買って帰る私もいて。

(出口聡子)

手前:塩屋の坂 奥:酢屋の坂

手前:塩屋の坂。奥:酢屋の坂。

観月祭の行燈。

観月祭の行燈。

杵築城と守江湾。

杵築城と守江湾。