アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

最新記事 編集部から新しい情報をご紹介。

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

TOP >>  特集
このページをシェア Twitter facebook
#39
2016.03

「伝える言葉」をさぐる 「ただようまなびや」の取り組み

後編 想像力を引き出すために
6)風化を受け入れる

東北で震災が起きて5年という時間が過ぎた現在、風化を懸念する声をさまざまなところで聞く。被害の大きさが衝撃的だったことで、当初はマスメディアを含め関心を向けられたが、次第にそれが薄れゆく傾向を不安視する声である。
だがこの傾向を、古川は別の観点から受けとめている。

「風化は当然だと思います。忘れるという作業がないと、感情とか体験って沈下しないと思うんですよ。一瞬忘れているようでも、ちゃんと定着、沈下したものはどこかで残っていて、いつでももう1回引き出せるし、咀嚼したり、そこから何か教訓を引き出すこともできる。そうじゃなくて、見ないとか、覚えないようにするとかだと、何も残らない」。

東北の出身者であり、「ただようまなびや」のような震災後に立ち上がったプロジェクトに関わる古川から、風化は当然という言葉を聞くと意外にも聞こえるが、あくまでもそれは将来を見すえての見解である。
「風化は空間的な距離とも関係していて、近いひとたちはなかなか忘れないけど、遠くになると当然忘れられていく。大事なのは、被災地の人間も風化は当然なんだと思うことですよ。この間沖縄に行ったんだけれど、僕らが考えているような「オール沖縄」みたいなものはない。それを福島のひとも考えないと。福島のひとがみんないろいろな考え方を持ってるなんて、外の人間は誰も思わないんだし。どうして福島のことをわからないのかって言うんだったら、自分は沖縄のことがわかるか、(テロ事件があった)パリのひとたちの気持ちも千差万別だってわかるか、といったことを考えよう、と最近福島の新聞で書いたんです」。

風化を現実のものとして受けとめるのは、実際に被災したひとたちからすれば思いは複雑だろう。けれど、「全員自立してもらうのが目標」という古川の言葉が示すように、こうした発想の転換により、震災の記憶を胸に刻みつつも、苦境を生き抜き、そこから踏む出すことを実現する、それが古川の提唱する未来へのアプローチである。