アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#24
2014.12

工芸と三谷龍二

前編 三谷さんのものづくり

三谷龍二さんは木工デザイナーである。松本に暮らして30数年、小さなりんご畑のそばに小さな工房をかまえ、木の器やカトラリーなど、生活の道具をつくっている。また、木のオブジェなどの立体作品も手がけ、絵も描く。当代きっての人気作家だから、三谷さんの作品を手に入れるのはもはや至難の業であるほどだ。
ふだんはものづくりして淡々と暮らす一方で、三谷さんは仲間とともに工芸のフェアや企画展などもつくってきた。全国有数のクラフトフェアである「クラフトフェアまつもと」や、そこから生まれた「工芸の五月」という催しに立ち上げから関わり、今では「瀬戸内生活工芸祭」のディレクターも務めている。
こう書くと、なんだかかなりやり手の、体育会系のひとを想像されるかもしれないが、じっさいの三谷さんはその正反対である。穏やかで、もの静かに話す謙虚なひとだ。本人は「声も小さいし、字も小さい。大きなことはできない人間」とおっしゃるけれど、そんなことは決してない(字はたしかに小さいけれど)。「自分のものづくり」をしっかりと見きわめ、それを誠実に続けるうちに、ものづくりもひととの関係も自然につながり、いつしか大きなかたちをなすようになったのである。

三谷さんのつくるものは、使いやすい。スプーンひとつとっても絶妙なカーブで口当たりがやさしいし、皿にしても、他の器となじみもよく、それでいて心地よい存在感もある。でも、それだけにはとどまらない。日常的に使うものとして優れていながら、ただのモノではない「何か」があるのだ。
今回の特集では、三谷さんのつくるものが持つ「何か」を探りつつ、三谷さんの仕事を見ていきたい。
ものづくりと生活と、そして工芸と。それらはいったい、三谷さんのなかでどのように捉えられ、結びついてきたのだろう。三谷さんの歩んできたこれまでを振り返ることは、ここ数十年の日本の生活文化や工芸のありようを知ることにもつながっていくはずだ。
前編ではインタビューをもとに、三谷さんのつくった年譜や著書の言葉も差し挟みつつ、ものづくりを始めてから2000年代前半くらいまでを取りあげていきたい。

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三谷さんの工房はこぢんまりしたりんご畑の隣にある。建物の右が工房、左が建築家・中村好文さんに建ててもらった三谷さんの家。今はゲストハウスにしている。りんご畑の向こうに漆工房も借りている

三谷龍二(みたに・りゅうじ)
木工デザイナー。1952年福井県生まれ。
1981年、長野県松本市に工房ペルソナスタジオを開設。陶磁器のように普段使いできる器を提案、多くの共感を得、それまで家具中心だった木工の世界を広げることに貢献する。

全国で個展を多数開催。
立体、平面作品も手がけ、伊坂幸太郎などの表紙の仕事も。
また、「クラフトフェアまつもと」「工芸の五月」の発足当初から運営に携わり、工芸と暮らしを結びつける活動を続ける。
2012年より「瀬戸内生活工芸祭」(高松市)の総合ディレクター。

2011年3月11日に自身の作品を常設展示するほか、他の作家との個展や、イベントを開催するギャラリースペース「10センチ」をオープン。

著作に『木の匙』『僕の生活散歩』『生活工芸の時代(共同編筆)』(以上新潮社)、『工芸三都物語 遠くの町と手としごと』(アノニマ・スタジオ)、
『三谷龍二の10センチ』(PHPエディターズグループ)などがある。

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