アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#1
2013.01

「本」でつながる、広がる ひととまち

後編 東北の場合、盛岡
1)盛岡発『てくり』 全国に届くリトルプレス1

てくり

センスのよい手仕事が数多(あまた)ある東北のなかでも、盛岡はひときわ洗練されていると思う。南部鉄器の鉄びんや鍋、フライパン。竹を編んだ生活雑貨。雪よけの鎧戸、お店のロゴなどシンプルで美しい意匠……。

『てくり』はその盛岡から、盛岡にフォーカスして発信する雑誌だ。数多あるローカル発のリトルプレスのなかでもひときわ目をひく。モノ、ひと、事をていねいにすくいとり、親しみやすく編集されていて、何よりつくり手が楽しんでいるのがよく伝わってくる。

キャッチフレーズは「伝えたい、残したい、盛岡の「ふだん」を綴る本」。例えば「メイド・イン・モリオカ」と題した号では、手紡ぎ手織りの毛織物であるホームスパン工房の三代目ご主人にフォーカスし、「お酒とわたし」号では、若い女性の酵母研究員や地ビールに関わる人々にインタビューする。あるいは「盛岡カルチェラタン」と題し、盛岡をパリのカルチェラタンになぞらえて『てくり』ならではの視点でガイドする。このまちで暮らす人々や場所、ものを通じて、日常の物語をとらまえ、誌面にしているのだ。

創刊は2005年。デザイナーや編集者、ライターからなる「まちの編集室」が手がけている。2012年12月現在、7年間で15号、別冊5冊を刊行。個人やユニットが手がけるリトルプレスとして活発に、息長く続けている。素晴らしいと思う。

盛岡の「ふだん」 ぶれずに、ていねいに

盛岡の中心にあたるエリアは、南北に流れる中津川で二分されている。穏やかな川沿いを北へ向かうと、ガラス張りの雑貨店が見えてきた。光が行きわたった店内は清潔で温かな空気が漂っている。ここ「ひめくり」は『てくり』がプロデュースするショップである。

ひめくり店内-1

この店で『てくり』創刊当初からのメンバーにお目にかかった。デザイナーでイラストレーターの木村敦子さん、ライター・エディターの赤坂環さん、水野ひろ子さんの3名。ちなみに、「ひめくり」の奥で『てくり』は編集されている。 「日頃の仕事ではなかなかできない、自分たちの興味あること、面白いと思うことだけで1冊つくってみたかったんですね」。木村さんが言う。それぞれが出版編集にたずさわっているからこそ、やるならどうするのか、はっきりしていた。

———“盛岡のふだんを綴る”という姿勢は最初から変わっていません。わたしたちから見た盛岡を取りあげていけたら、ぶれのない、密度の濃い本ができると思ったのです。

3人の思いは共通している。名物を寄せ集めるのではなく、このまちで暮らすひとが営む日々のかけらを見いだし、拾いあげていきたい。目を凝らせばかけらはいくらでも見えてくる。

ひめくり店内-2———盛岡だけでネタが持たなくなるんじゃないか、とよく言われます。確かに、観光地などを拾っていくと限られてしまうと思いますが、例えば誰かのことを一言では言い表せないように、まちもそうなのではないでしょうか。日常のできごとも見方、見せ方によって違ってくる。それに、基本的に「ひと」にスポットを当てているので、面白いひとはたくさんいらっしゃるんですよ。そのひとたちがそれぞれ、日常の物語を紡いでいくわけですから。

まちというのは、そこに居るひとびとが織りなす日常でできている。ひとを取りあげていくことで、まちの持つ複雑で豊かな表情が少しずつ見えてくるのだろう。

「盛岡限定」というルールは徹底していて、盛岡以外の、たとえば岩手県全体に関わることなどは別冊で取りあげる。

もうひとつ、3人がぶれずに守り続けていることに「ていねいさ」があると思う。毎号の最後の頁には、創刊号から変わらぬメッセージが綴られている。

てくてくと歩く。
てづくりを愛する。
廚(くりや/台所)の感覚と、クリアーな視線で集めたモノ・人・事を紹介したい。
「てくり」という名にはそんな想いがこめられています。
盛岡に暮らす人の数、およそ30万人。
そのひとりひとりが持つ「物語」を歩く速度で、てくりてくり、丁寧に。
この街にしかない「毎日」を、大切にするために。

右から木村敦子さん、赤坂環さん、水野ひろ子さん

右から木村敦子さん、赤坂環さん、水野ひろ子さん