アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#1
2013.01

「本」でつながる、広がる ひととまち

後編 東北の場合、盛岡
6)(補足)ローカルメディア
分解すること、ストーリーを見せること

ここ数年、東北に限らずローカル発の本や雑誌が増えている。その土地らしさを元から住まうひと、移り住んだひと、あるいは外からの目線で、とさまざまな角度からの切り取ることで、その土地の見えかたも違ってきたりする。たとえば、秋田で2012年に発刊された『のんびり』は、全国を旅しながら雑誌や本をつくるRe:S藤本智士さんの目線でつくられた秋田県のフリーマガジン。藤本さんの目線だからこそ見えている事柄もあって、秋田の一面を魅力的にを伝えるツールになっている。

表参道のセレクトブックショップ「ユトレヒト」のオーナー江口宏志さんに、今のローカルメディアの状況について少し伺ってみた。江口さんはリトルプレスやzine(*)のイベント「THE TOKYO ART BOOK FAIR」のディレクターでもある。

———地方のいいものを、さまざまなストーリーから見せていくようになったんだと思うんですね。デザイナーやクリエイターなどで客観性を持ったひとが、いろんな場所に行くようになった。そして、「見せるに値すること」を彼らなりに切り取り、示してくれる。それを見て、まわりも「それもありなんだ」と思うようになってきた。そんな気がしますね。地方のプロモーションというと、ナガオカケンメイさんのD&DEPARTMENTが広めたところはあるんじゃないでしょうか。地方のいいものをデザインという切り口から見せてくれたのでは、と。

ちなみに『てくり』は2008年、ナガオカケンメイさんがキュレーターを務めた「デザイン物産展ニッポン」に冊子部門岩手代表として選ばれてもいる。 地方メディアについては、江口さんは今思っていることがある。

———新しいものづくりを探ったり提案するのではなくて、ものづくりの要素を“分解”すること、ですね。例えば何か地場産業があれば、その素材、つくり手、技術をそれぞれを別に見せるという。

江口さん自身、地場産業を盛り上げる媒体作りを依頼されることもあるけれど、例えば新たにブランドをつくっていったりすることは、そう簡単なことではないと実感している。複数の会社が集まればコンセンサスを取るのも難しいし、良い技術があるから素晴らしいものができるとは限らない。それよりも、優れた素材、技術、つくり手をそれぞれ別個にアピールするほうが、何か新しく発展する可能性が見いだせるように思っている。

そしてもうひとつ、ローカルメディアはモノそのものよりも、その背後にあるストーリーを紹介したほうが広く受け入れられるのではないか、ということ。 2012年開催の東北の食と住を取りあげた「テマヒマ展」がまさにそうだった。グラフィックデザイナーの佐藤卓さんとプロダクトデザイナー深澤直人さんのディレクションで、東北の食と住を今の時代に添うように、新たにストーリーづけした展示と映像で見せたものだ。「こんなひとたちが、こんな大変な思いをしてつくっているんだ、ということが伝わる良さというのがあって。これだけたくさんの『見せるに値すること』が東北にはあるんだとわかったのがこの展のすごいなと思ったところで。それこそストーリーがたくさんあるんですよね」。 歴史的だったり、そのまちの文化とつながるモノの「ありかた」を知ることで、まちや地域の魅力を感じとれる。とても素敵なことだと思う。

ちなみに、江口さんが最近ローカルもので面白いと思っているのは与那国島発の『馬語手帖』。馬と暮らすために、日本で一番西にある与那国に移住して、小さな出版社を始めた著者の本だ。著者の河田桟さんは馬が大好きで、2年間ほど馬と暮らして、表情や体の動きを見ていて馬の感情を読み取るようになったという。「そういうのがいいです。やっぱり、その土地ならではみたいなことがあるといいですよね」。

「ユトレヒト」オーナー、江口宏志さん

「ユトレヒト」オーナー、江口宏志さん

「秋田からニッポンのびじょんを考える」フリーマガジン

「秋田からニッポンのびじょんを考える」フリーマガジン

テマヒマ展

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Cyg art gallery
盛岡市内丸16-16 大手先ビル2F | tel・fax 019-681-8089
cyg-morioka.com

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仙台市青葉区本町1-14-30-1F | tel 022-716-5335| 11:00~19:00 | 火曜・水曜休 | kasei@cafe.email.ne.jp www.kaseinoniwa.com

書本&cafe Magellan
仙台市青葉区春日町7-34 | 10:00~20:00(土日のみ19:00) | 火曜休
magellan.shop-pro.jp|?mode=f1

stock(『ふきながし』吉岡英夫)
仙台市青葉区一番町1丁目12-7 中川ビル201 | tel 022-342-1082 | 13:00-19:00(土日のみ営業) | info@stock-web.com |www.stock-web.com

仙台文庫(大泉浩一)
仙台市青葉区木町通1丁目1-11 朝日プラザ北一番丁1F | tel 022-224-5308 | sb@md-sendai.com
mediadesign.jp/publishing/article-146/

ユトレヒト
港区南青山5-3-8 パレスミユキ2F | tel 03-6427-4041 | 12:00-20:00 | 月曜休(祝日の場合は翌日)| info@nowidea.info| www.utrecht.jp

取材・文:村松美賀子
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)、『京都の市で遊ぶ』(平凡社)など、共著に『住み直す』(文藝春秋)、『京都を包む紙』(アノニマスタジオ)など多数。

写真:成田 舞
写真家。関西を中心に展覧会等の活動を行う。2009年littlemoreBCCKS第二回写真集公募展で大賞・審査員賞を受賞(川内倫子氏選)。写真集『ヨウルのラップ』(リトルモア)。