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アネモメトリ -風の手帖-

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#1
2013.01

「本」でつながる、広がる ひととまち

後編 東北の場合、盛岡
5)本の底力 細く、長く続ける先に

仙台と盛岡で多くの方に話を伺うなかで、印象に残ったことばがある。「細く、長く続ける」ということ。ブックカフェ「マゼラン」の高熊さんに『ふきながし』発行人の吉岡さん、そして「仙台文庫」の大泉さん……。

そもそも、前回と今回取りあげたのは、本のメインストリームで活動されている方々ではない。リトルプレスや市民出版、個人のお店など、少部数や少数派である。大きな組織ではない、個人レベルだからこそ、続けて初めて意味が出てくるし、それぞれがそのことを実感しているのだと思う。そして、小さな、マイナーなものがいくつもあってこそ、そのまちの文化に厚みが出て、豊かになるのではないだろうか。

2011年に東日本大震災が起こって、前野さんは自分の店も「もはやここまで」と思ったという。「本どころじゃないですよね。わたし自身も被災して、避難したし。こんな状況で誰も本なんて読まないだろう、と思ったんです。けれど、いざ店を開けてみたら、本が読みたいという方々がたくさんいらしてくださった。びっくりしました」。古本を扱う「火星の庭」だけでなく、「ジュンク堂仙台ロフト店」も3月末に営業を再開したときは、フロアがひとであふれたという。悩みぬいた末に開催した6月のB!B!Sも、結果的にはこれまでで一番の人出となり、4万人が訪れた。

———本当に飛ぶように本が売れるんです。ジャンルはもう何でも。日常が非日常になってしまって、すごくシビアな状況にいるなかで、そこから一度離れないと持たない、という感じだったかもしれません。それには本は格好のツールなんですよね。いつでもどこでも、読みたいときにぱっと開いて、その世界に入っていける。本は強いと実感しました。

本はそのもの自体に力があると同時に、ひととのコミュニケーションにも関わってくる。B!B!Sにやってきて、本を介してことばを交わしたり、またその本を誰かと貸し借りしたり、自分が手放したとしても、その本がまた誰かの手に渡るかもしれない。面と向かう直接のコミュニケーションだけでなく、間接的なやりとりも起こってくる。本とひとのつながりは深い。

東北だけでなく、東京、福岡、名古屋など、各地でブックイベントが起こっているのも、ただトレンドとして起こっているのではなく、本の底力とも大いに関わっているのではないだろうか。 細く、長く。本をめぐるさまざまな動きが続けられることで、ひとも、まちも健やかにつながっていけるように思った。

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