アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

風を知るひと 自分の仕事は自分でつくる。日本全国に見る情熱ある開拓者を探して。

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#28

アートではない活動が、障がい者の日常にやりがいをつくる
― 薮内都

(2015.03.05公開)

 「poRiff」を知っているだろうか。使用済みのビニール袋を切り抜き、コラージュしてつくったバッグやポーチなどのカラフルな製品のブランドだ。制作しているのは福祉施設の障がいを持ったひとたち。京都造形芸術大学出身の薮内都さんは「poRiff」のデザインや、展示会の企画、販路の拡大などを一手に担っている。製品の売り上げは作り手に還元され、障がい者の雇用とやりがいを生み出している。薮内さんは何を思いながら彼らを支援し、共に働いているのだろうか。

生地の切れ端

「poRiff」の生地は切れ端もカラフル

——芸大出身の薮内さんが福祉施設の障がい者と関わりはじめたのはなぜですか。

はじめは絵本のイラストが描きたくて、京都造形芸術大学のこども芸術学科に入ったんです。三年生まではずっとイラストを描いていたんですが、保育士になるための実習があって、保育所と児童養護施設と児童館に行くことがありました。そこでは障がいのある子も一緒に活動をしていたんです。それを見て、障がいのある子が生活しやすい環境について考えさせられました。あと、母が福祉施設に勤めていて、わたしが小さなころから障がいのあるひとたちと接する機会が多かったということも関係あると思います。
それから施設でものをつくるワークショップをすることもありましたね。そうやって外部と関わっていくうちに、自分の内部をイラストで表現するよりも、ひとと接することに面白みを感じるようになりました。

——在学中から「『poRiff』代表」として活動されていたそうですね。

大学院に入って障がいのあるひとがつくる商品の展示をやっているときに、別の学科の先生が見ていてくださっていて、それで「薮内さん、やってみない」というふうに紹介いただいて、『poRiff』の活動をやるようになったんです。具体的にはワークショップや展示の企画といったディレクションですね。

——大学院では「障がい者にとってのコミュニケーションデザイン」を学んでいたそうですね。これは障がい者が「やりたいけどできない」と思っている何かを手助けするということでしょうか。

「やりたいけどできない」とは向こうも思ってないかもしれない。ただそのひとが楽しくてやっている行為とかこだわりとかに「それっていいやん」って言いたい。
障がいで何かできないことがあったとして、わたしたちがするべき判断というのはふたつあって、ひとつは、できないことはそれでいいとあきらめること。もうひとつは、どうしたらできるのかということを、ものすごく徹底的にわたしたちが考えるということなんですね。
でも、今の障がい者施設の現状というのは違っていて、50年やってもできない努力をしているケースも少なからずあると思います。それは「できないことがあったらダメ」ということで、障がいを否定することにつながりますよね。障がいがダメというのは、そのひと自体を否定しているじゃないですか。そういうのって面白くないなって思うんですよ。そのひとが障がいを持っているからこそできることとか、こだわってしまうこととか、つまずいてしまう部分がいいのであって、そういうところを活かした仕事がしたいと思っています。
だからわたしにとっての「障がい者にとってのコミュニケーションデザイン」というのは、障がいのあるひとがただものをつくるだけじゃなくて、誰かと関わりながらものをつくっていく、目に見えるやりかたということですね。

——強制してもできないものはできないですよね。

うん。そのままでいいやんとわたしは思います。「これはできないけどこれはできる」ということを分担するのは普通の仕事と一緒で、施設ではそれをもっと細かく分けてやっている感じですね。障がいのあるひともわたしにできないことをたくさんできるんです。
「poRiff」の作業でも、色を決めるカラーリングとか、材料を切ったり貼ったりする作業とか、わたしよりも彼らのほうが得意。わたしはあえてそういう作業には入っていないんです。だから「poRiff」の商品はわたしがつくっているものではないと思います。

poRiffの材料1
poRiffの材料2

poRiffの材料となるビニールを切ったもの。大きさ別に分けている

——「poRiff」は全て手作業でつくっているんですか。複雑に色が重ねられていますし、かなりの手間がかかっていますよね。

作業を細かく分けているんです。たとえば材料のビニール袋を色別に分けるひとがいて、その袋をハサミで切るひとがパターンの大きさごとにいます。それにアイロンで熱を加えてビニールを貼るひとがいるんですけど、これも大きさごとに作業するひとが違います。そこに差し色を入れていく作業というのもあって、これはわりと人気があります。わたしは精神と知的と身体の障がい者施設を見て回っているんですが、施設ごとにそれぞれ得意なことも違いますね。

作業風景2

作業風景3

poRiffの生地

(上2点)制作しているようす。切ったり貼ったり熱を加えたり(下)生地は基本的にビニール素材。これがさらにバッグや小物入れになる

——それは商品をつくっている現場に足を運ばないとわからないことですね。「現場主義」というのが薮内さんのポリシーだそうですが、なぜ現場にこだわるのでしょうか。

デザイナーは現場に出るべきだと思っています。わたしは商品の「カタチ」を決めたり、展覧会等のフライヤーのデザインもしているんですけど、デザインの仕事はパソコンがあればひとりでできてしまう。パソコン上では赤色のものでも青色に変えられますよね。だけど、施設のひとたちがものをつくっている姿勢を見ていると、簡単には変えられないときもある。それでわたしが触れられない領域がだいたいわかってきます。
障がいのあるひとと働くなら、一緒に現場で動いてこそやりがいを感じられると思います。それと施設のスタッフたちと話すことも大切ですね。現場のスタッフの方々とたくさん対話して「障がい」について知りながらも一緒に働いていることが実感できたらすごく嬉しい。「モノ」をつくるより「コト」に重点を置いています。

——薮内さんの言う「コト」とはなんでしょうか。

商品の企画や開発以外の、必ずしもお金にならないものですね。たとえば、重度の障がいを持っているひとに対して一般的な「働く」を目標としたアプローチで接するのではなく、それをわかった上で、単純にそのひとが施設に来るだけで居場所があって、周りのひとたちが必要としている環境をつくっていくということです。そういった、障がい者にとっての存在価値のようなものを、施設のスタッフや本人の家族といったいろんなひとたちと関わりながらつくっていくんです。それが実現できるとわたしも心地がいいですし、そのことをきちんとことばで表現することも大切です。
商品ばかりが先行して、どんなひとがつくっているのか見えてこない部分を個展などで表現していくことで、健常者も少しでも視点を変えられるきっかけにしたいと思っています。

——施設で障がい者のやりがいを生み出していくうえで、福祉の現場で求められているものは何だと思われますか。

障がい者を直接支援する以外の面から言うと、福祉の勉強を専門にしていないわたしが今、3つの施設に通わせてもらっています。そんな状況で感じるのは、商品の企画、デザイン、ワークショップ、作品の展示みたいなことをする立場の人間が求められているということです。
もちろん福祉を専門に学んできたひとたちは必要です。そのなかで芸大を卒業したような変わった視点を持ったひとが、施設の現場でも少しずつ求められてきているんじゃないかな。

——アート系のひとが施設に行くのとは逆に、施設のなかのひとによるアウトサイダー・アートのような活動はどう思われますか。

障がい者によるアート活動って、わたしも初めは面白みを感じていたんですけど、施設のひとたちと関われば関わるほど興味がなくなりました。たしかに、そういうアートは注目されています。ひと握りの絵が描ける障がいのあるひとがいて、後からいろんなひとが参入してきたわけです。ですけど、障がいがあり、絵が描けるわけでもなく毎日真面目に施設に通っているひともいることも忘れてはならない。そのひとたちに目を向けたいと思ったんです。特別な才能を持っているわけではない障がいのあるひとと一緒にできることをやろうって始まったのが「poRiff」なんです。

——「poRiff」はアートではないんですね。

うん。アートじゃないと思います。毎日の生活のなかで彼らが楽しいとか心地いいとか、施設で自分が必要とされているなあとか感じられる活動であってほしい。そういうことが生きがいにつながると思います。いつも笑い合えるような現場を一緒につくっていきたいですね。

休憩室

作業場の休憩室のようす

——「poRiff」では展覧会もされているそうですが、どういう意図があるのでしょうか。

年に1回、「poRiff」では自主企画での展覧会をしています。前回の展覧会のテーマが「スタンダードを疑え」だったんです。それが言いたいことに近いですね。今、ふつうよりちょっとでっぱったりへこんでいるとダメだという風潮があるけど、そのでこぼこの状態が認められるようになったらいいですね。「ふつう」がいいって言われるけど「ふつうって何なんやろ」って、疑うことが大事で、みんな一緒だと面白くない。この活動をしていくなかでわたし自身がすごく「ふつう」を意識している一方で、「ふつう」っていうのはユーモアが足りていないんじゃないかと自問しています。それに、「ふつう」の対象が「障がいのあるひと」ってなった途端、どう反応していいのか困りますよね。ここで笑っていいのか迷ってしまうのはなぜだろうって、考えてみることも大事だなと思います。

個展1
個展2

昨年開催された個展の展示物。扉を開けると「poRiff」の制作メンバーの写真とエピソードがあらわれる

——「poRiff」の商品は昨年からラフォーレ原宿のショップでも扱われるようになり、注目が集まってきています。その秘訣はなんでしょうか。

どれも配色が違って一点物だという商品自体の面白さもありますが、プラスアルファがあるということですね。バックにストーリーがあるってことを、商品を仕入れるバイヤーさんは見てくれています。でも障がい者施設でつくっていることを知らない、ふらっとやってきたお客さんからすると、他のメーカーの多機能なバッグも魅力的だと思います。その中で「poRiff」のシンプルなバッグを気軽に手に取ってもらえるように、手頃な価格を目指しています。

poRiffの製品
大丸梅田店

「poRiff」の製品と販売光景(2013年、大丸百貨店梅田店にて)

——2014年は国立新美術館に商品を置いてもらうという目標を達成されたそうですね。今後の展望についてお聞かせください。

今まで話したように、スタンダードを疑い、ありのままを受け入れる現場をつくっていきたいです。そのためには、ちょっと違う視点を持ったひとが増えたらもっと面白くなると思います。そして今は商品をどこに置いてもらうかというより、目の前にいる「ひと」を大事にしながら確実に進んでいきたいです。これに尽きますね。

インタビュー・文 大迫知信
2015.1.7対面にて取材

風を知るひと 薮内さん

薮内都(やぶうち・みやこ)
1988年徳島県生まれ。2013年、京都造形芸術大学大学院芸術表現専攻デザイン領域修士課程修了。学部時代から子どもや親子を対象としたワークショップやプロジェクトに参加し、福祉施設に通いはじめる。個展や福祉施設との企画展を開催。福祉施設を対象としたワークショップや空間演出など社会とリンクし、活動を行う。2011年より「poRiff」代表としてディレクションを開始。現在も福祉施設に定期的に通いながら現場に特化したインクルーシブな中間支援を行っている。

大迫知信(おおさこ・とものぶ)
1984年大阪府生まれ。広島県福山市で育つ。工業系の大学を卒業し、某電力会社の社員として発電所に勤務。その後、文章を書く仕事をしようと会社を辞め、京都造形芸術大学文芸表現学科に入学する。現在は関西でルポライターとして活動中。