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アネモメトリ -風の手帖-

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#59

古道具
― 安齋伸也

(2017.11.05公開)

道具について
僕はあんまり道具に頓着ない。震災を経験してからは特に薄らいだように思う、、、。
持たないようにしているのかもしれないね、なぜだかはっきりとは分からない。
道具の話をしろと言われたのにこんなことを書くと身もふたもないようですが、せっかくなので正直に書きたいと思う。
自分の理想として百姓を目指して日々を過ごしている自給用に野菜を育て、 手植え手刈りで米作りもする。どちらも農薬も肥料も使わない。土を起こすのに機械も使うが、面積がそんなに広くないし、自給用と決めているのでほとんが手作業だ。そのほか手作りのソーセージやスモーク、鶏を絞めて解体したり、お風呂の燃料用に丸太を切って薪にしたり、建物の補修や簡単な大工や塗装、機械や道具が壊れたら応急処置をしたりと、挑戦する項目が多くそれぞれがまだまだ未熟すぎて技術習得が先決で、道具にまで意識が向かないのが現状かな。
こんなことをしていると専用の道具がいくつも必要になる、いちいちこだわってたら破産しちゃう !
でもこだわりたい気持ちはいつもある。道具の良し悪しと技術の成長は共にあるように思う。
あっ! でもそうとも言い切れないか? 技術を道具がカバーしてくれることもあるね。

畑の道具
以前知り合いから、昔の古い錆びた鍬を貰ったひどく錆びていたし、変わった刃先をしていたので特に使わないで放っておいたある時何気なく使って驚いた。
普段は、ホームセンターなどで売っている中でも一番良い値段のする鍬を一応使ってるんだけど、一振りの土への刃先の入り込み具合が全然違かった。
持った感じはずっしりと重く振りかぶるのが大変なんだけど、その分振り下ろすだけでしっかり耕すことができ一方現代版は、扱いやすくコンパクトで、軽い。 なので自分の力を使う羽目になる。使い慣れて、上手に地面にコンタクトできないと一向に耕し進まない。ある意味難しい。
そもそも現代の農業の現場では、単一品目、大量生産、効率化に加えて農業従事者の高齢化が、省力化を目指し機械化が進んできているため、プロが使う手作業用の道具は減ってきているホームセンターにあるのは小規模な家庭菜園用ばかり、中間がない状態だと思う。故にそれを扱えるプロも少なくなってきているので、昔の道具の使い方をおじいちゃんに聞く感じ。 
化石燃料が無かったら食べ物作れないということを思い知らされますね。
今は、鍬などを作る野鍛冶も珍しくなってしまいなかなか本当に良いものと出会えないのもとても残念。いつかは、野鍛冶屋さん自分の作物用の道具を作ってもらい仕事ができたら幸せだと思う。

古道具の芽生え
現代の道具にはあまり執着はないのだが、どうにも古い道具や、朽ちた木片や、 錆びた鉄物が好きでしょうがない。
きっと母親の影響なのだと思う多分、中学生ごろから、日曜の早朝となると訳も分からず骨董市などに連れて行かれてた。
高校生になる頃には、古いカメラや、時計、使途不明な物(泥が付いたままのゴミ)など、自分がなんとなく良いと思ったものを集めていた。
そのうち廃車屋さんや近所の納屋に捨てられている古いバイクを譲り受け直しては乗り回して遊んだりもした(暴走はしてませんよ!笑)
あとよく粗大ゴミで捨てられてるオーディオを拾ってきて大きな音で音楽を聞いて喜んでたように思う。 そういった遊びの中で、現代にはない昔のものづくりのしっかりとした良さみたいなものを感じていたように思う。
それともうひとつ、僕の道具感を養なった大切な事柄がある
スキーだ小学生から現在に至るまで、ずっと続けている。
スキーは道具に依存するスポーツで、そもそも道具がないと始まらないし、もろに影響も受ける道具に左右されるスポーツでタイムを競っていたので、もちろん手入れも神経質にならざる得ない道具への神経質なこだわりはここで学んだように思う。

古道具屋はじめ
冒頭に書いたのと完全に矛盾してますよね笑。
ある時友人に古道具なんか出してイベントに出店してくれと言われたのが始まりです。美術とか骨董とか呼べるものではなく、普通に見たら本当にゴミ
でも自分が良いと思ったものを。
人の作為が消えかかっているものが好き。 店の名前は黒点堂」です。意味は、光に埋もれて見えないってこと。

黒点堂で購入した木片を、陶芸家の吉田次朗さんが作品に。

黒点堂で購入した木片を、陶芸家の吉田次朗さんが作品に。

たべるとくらしの研究所の一角にある骨董コーナー。コアな常連さんが通う。笑

たべるとくらしの研究所の一角にある骨董コーナー。コアな常連さんが通う。笑


安齋伸也(あんざい・しんや)

一般社団法人たべるとくらしの研究所、理事長。
福島市にて、りんご、桃、梨を直販するあんざい果樹園の4代目として、果物の自然栽培や、農業の6次化の準備を進めていた2011年被災する。苦渋の選択で、札幌移住。2011年12月、研究所を設立、翌年2月に飲食店としてオープン。環境の一部としての人のより良い暮らしを研究している。開墾から、種を蒔き、自然栽培で野菜と米をつくる。妻・明子と共に自給された旬の食材を使い飲食メニューや加工品の開発を行う。農作物生産ロスゼロをテーマに、オーガニックで自給率の高い食事を提供し研究報告と称した料理教室を行う。そのほか音楽イベントやワークショップなどを多数企画。
その他、骨董屋「黒点堂」店主、EARTH OVENビルダー、スキー教師、もはや何屋だか分からないが、興味の尽きない美味しいと楽しいの探求者。

震災から移住までの家族の変容を描いた本のモデルとなる。
『まよいながら、ゆれながら』著:中川ちえ
http://millebooks.blog.so-net.ne.jp/2013-05-07

札幌に移住後の日々の暮らしがドキュメンタリー映画となる。
『別れ方暮らし方』監督:伊藤菜衣子
http://bouken.life/feature/cinema_170507/

福島文化イベント「FOR座REST」の副代表。
https://greenz.jp/2015/07/04/forzarest/

札幌国際芸術祭2014「プロジェクトFUKUSHIMA!」招致発起人の一人。
http://www.sapporo-internationalartfestival.jp/2014/programs/bonodori

札幌国際芸術祭2017 一般公募作品モバイルアースオーブンにて参加。
https://mobileearthoven.tumblr.com/
http://siaf.jp/projects/mobile-earth-oven

Asian Sounds Research OPEN GATE 2017 モバイルアースオーブンで参加。
https://www.soundsresearch.com