アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

手のひらのデザイン 身近なモノのかたち、つくりかた、使いかたを考える。

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#37

磁石
― 大西清右衛門

(2016.01.05公開)

幼い頃は家の庭で、いろんな種類の蜘蛛や蟻をマッチ箱に採集しひとり遊んでいた。小学校に行く頃には教室を抜け出し校庭や野山に行き、毛虫からカエル、ヤモリ、カナヘビを捕まえては庭に放し、生き物が勝手に増えていた。カエルやトカゲをポケットの中で握りしめて家まで持ち帰ったら、息ができずに青くなって死んでいた。それからは虫かごやコーヒーの瓶に入れて持ち帰るようになった。
ある時はコーヒー瓶にキラキラ光るぐらいメダカをいっぱい採り、喜び勇んでバスに乗ったのに、停留所で飛び降りようとして瓶を落として割ってしまった。道路に100匹近くのメダカがピチピチ跳ねていたがどうすることもできずに、泣いて帰った。死んでしまった生き物たちも皆好きでたまらなかった。
小さいころに虫を捕まえたり、ものを収集し宝箱に集めることは誰にでもあるのではないかと思う。そしてそれは自分だけの獲得物となる。

私の仕事は鋳物業で、茶の湯釜を制作するのだが、素材や工程には砂鉄、(くろかね)、銅、Ti(チタン)Cr(クロム)、金、銀、紙、木、粘土、珪砂、泥、水、炭、蜜蝋、松脂、藁、麻、籾殻、漆その他色々必要となる。素材というものをいつも身近に感じることができる。
最近では鉄を作るとき、鉄の調合に高周波炉を使用する。電磁誘導を利用してジュール熱を用い鉄を溶解するのだが、冷たい個体であった金属がやがて暗い色から朝焼けの太陽のように赤く、またオレンジ色になり溶け出し、液体になった溶鉄は1,600℃を超えると真っ白になり閃光を放つ。液体の鉄は鋳型の中で固まり茶の湯釜となる。茶の湯釜は何百年と使われ、朽ちてやがて錆となり地球の土壌にもどるのである。

人工物である釜だが、自然を感じられるように作りたいと思う。なかなか自然を追い抜くものは作ることができない。常日頃から、自然が好きで自然を感じるように心がけている。

磁石でよく遊ぶ。磁石好きなのである。手の中で握るとずっしりとした重量感がある。
磁石には馬蹄形から棒状、ドーナツ形、角形など色々な形がある。息子の誕生祝いにかこつけて工業用ネオジウム磁石球形を300個程購入。磁力にまかせてくっつけていくと積み木をつむようにはいかない。磁力があるからだ。ここが人間の浅はかさで自分の思いどおりにしたくなる。その見えない力に法則を見つけたくて一晩中くっつけ続けるのである。計算ではなくて実感したい。そうするといろいろな形ができてくる。輪にしたり、帯にしたり、磁力に任せてつなげていくのである。
なぜ球形かというと、わたしは球型に安定を感じるからだ。太陽や地球にも磁場があって、手の中で北極S極、南極N極とを持つ地球を感じることができる。詳しくはロバート・ノーマンやウィリアム・ギルバートの発見にまかせるが、それに反した磁場には見えない力、見えない流れ、強さを感じるのである。
そうすると磁場を目視したくなり四三酸化鉄の粉末を用意する。地表には自然にできた起伏があるが、人工物の磁石でできた四三酸化鉄の起伏にうっとりする。磁力から自然を感じるのである。

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起伏 四三酸化鉄 撮影:大西清右衛門

大西清右衛門(おおにし・せいえもん)
釜師、造形作家。1961年、十五代大西清右衛門の長男として京都市三条釜座に生まれる。1986年、大阪芸術大学美術学部彫塑科卒業。1996年、「中世の釜の挽き中子技法」「砂鉄製鉄実験」の再現に成功する。1998年、大西清右衛門美術館を開設。2006年、「17世紀・銀閣寺伝来夜学釜」の復元、「伏見城門の鉄(16世紀)合体釜」を製作する。2008年、龍安寺鉄燈籠の扉を復元する。2009年、国立民族学博物館「千家十職×みんぱく 茶の湯のものづくりと世界のわざ」展に出展。2010年、セゾン現代美術館「遭遇、カオスにて」展出展。2013年、KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭に写真作品を出展。2014年、京都府文化賞功労賞受賞。著書に『茶の湯の釜』(淡交社)がある。