アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

手のひらのデザイン 身近なモノのかたち、つくりかた、使いかたを考える。

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#134

集めもの、もらいもの
― 辰巳量平

(2024.02.05公開)

出かけ先で見つけるイベントのフライヤー、こだわりのあるショップカード、どこに貼るかわからないけどもらえるシール、開けるたびにいろんな色を見せてくれるシュレッダーにたまった紙くず、本当に使われていたのかただの汚れかわからない中古の活版印刷用の活字、あまり見かけない日本語タイプライター、ご当地のプリントTシャツやこれから印刷される無地Tシャツ、変な人形がついているペンなどを、私は気になってしまい集めがちです。
そうしていろいろなものを集めすぎてしまった結果、いくつか「道具」になってしまったものたちがあるので、今回はそれらを紹介していきます。

「梅田哲也展 wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ」ワタリウム美術館にて。昔の工事現場の看板の複製

「梅田哲也展 wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ」ワタリウム美術館にて。昔の工事現場の看板の複製

同展覧会場にて。展覧会グッズのロンTの印刷

同展覧会場にて。展覧会グッズのロンTの印刷

私は普段、印刷屋で週5日働きつつ、週2日は個人印刷屋の「二日印刷」として活動しています。略して「ふつか」。主にシルクスクリーン印刷でTシャツやポスターなどの印刷物を作っています。
そして印刷にまつわるようなアイテムの制作をしています。シルクスクリーンフレームを固定する印刷台やインク、本、紙、文具などの道具を作っています。ちなみに週5日の印刷屋の方では印刷作業がメインではなく、シルクスクリーンインクや製版機などの制作や企画、印刷工房の運営や、工房で道具の使い方の案内などをしています。そう、道具ばかりを扱っているなとしみじみ思います。

刷り台6号 シルクスクリーンのフレームの高さ調整が簡単にでき、画期的な構造ができたと個人的に思っている。現在はちまちま微調整中

刷り台6号
シルクスクリーンのフレームの高さ調整が簡単にでき、画期的な構造ができたと個人的に思っている。現在はちまちま微調整中

道具を作る際にも、やはり道具は必要です。ただ、道具を作る際の道具は特定のものがないように思えます。お気に入りのカッターやペン、定規などはありますが、作る道具によってはパソコン作業のみのこともあります。道具を作ろうと思って専用に作る道具もあれば、自ら収集しすぎたものや、もらいものの扱いに困って、放置し、さあいよいよ放置できないぞという状況に直面し、道具化することもあります。

たとえば、紙くず。
職場の先輩に「紙は神様なのだから大事に扱いなさい」と言われたことがあります。ただのダジャレだ! と思いましたが、かなり昔に言われたのに、いまだに心に残ってしまった言葉ですね。その言葉のためか、きっと自分の性質上でしょうが、なんとなく捨てるのに抵抗があります。触って楽しんだり? クッションの中身? 紙漉きで大きな紙を作る? あれこれ考えつつ、時間や場所も影響しつつ、扱い方や形が決まってきます。
紙くずはシュレッダーされたように均一なサイズになっていると、より使いやすいです。紙くずは紙漉きをして、再び1枚の紙という道具になりました。

紙漉漉漉(かみすきすきすき) 書いても良し、飾っても良しの自立する1枚の厚紙

紙漉漉漉(かみすきすきすき)
書いても良し、飾っても良しの自立する1枚の厚紙

たとえば、無料で配布されているフライヤー。
特定のこと・場所などを宣伝するための情報紙ですが、イベントや展覧会の会期が過ぎると情報が古くなってしまうことが多々あります。デザイナーやイラストレーター、写真家や印刷屋など、たくさんのみなさんが一つのイベントに注力し、できあがった1枚の紙は簡単には捨てることができません。これが無料で良いのですか? と思いながら集め、たまりにたまったフライヤー。それこそ捨てないので、ファイリングが間に合わず、段ボールに押し込み、何箱も積みあがっていきます。ああ、このままだとフライヤーが泣いているということで、フライヤーをまとめ背を綴じると、1冊の本という道具になりました。

フリーペーパーブック フライヤーをサイズごとに分類し、それらをまとめ厚みを出し、本棚に収まるように機能性を出した

フリーペーパーブック
フライヤーをサイズごとに分類し、それらをまとめ厚みを出し、本棚に収まるように機能性を出した

もらいものでいうと、たとえば竹炭。
最近は放置された竹林が土砂災害を引き起こすとされ、問題視されています。竹を切り、焼いてできた竹炭で何か活用できないかなと渡されたことがあります。触ると手が真っ黒になるので、そっと放置し、部屋の空気洗浄になるのかなと言い訳を自分にしつつ、長い間、部屋の片隅に置いておきました。ただ、炭をいれている竹筒を倒してしまったり、どう扱うべきか考えるためにちょっと取り出すと、炭がどんどん散らばり掃除をするはめになります。そこで形を整えるために一度粉末にし、円形の型に入れ固めると鉛筆という道具になりました。

きっと鉛筆 平らな面を使うと100ポイントの太さで書ける。HBくらいの濃さが書けるように竹炭の分量を調整した

きっと鉛筆
平らな面を使うと100ポイントの太さで書ける。HBくらいの濃さが書けるように竹炭の分量を調整した

自分が好きなものを集め、集めすぎてどう扱えば良いのだ? という悩みは幸せな悩みなはずですが、どうしてもスペース的な問題が出てきます。捨てたらそこですっきりできるとわかっているのですが、どうにかうまく付き合えないのかという思いが、良くも悪くも日ごろから小さなプレッシャーとなっています。そもそも集めなかったり、もらわなければ良いのですが、ああだこうだと考えたり、考えなかったりしているうちに、取り扱い方がわかり、形になってくるとき、ようやくその物と向き合えた気がします。
ああこういうことだったんだね。
このような発見が、そして発見できるだろうという思いが、また収集する勇気を自分に与えてくれます。こうして道具作りの元となるかもしれない道具集めの日々を過ごしています。

シールパネル(仮) 身の回りでシールを貼るところがなくなり、行き場を失っていましたが、最近シールとの向き合い方がわかりました

シールパネル(仮)
身の回りでシールを貼るところがなくなり、行き場を失っていましたが、最近シールとの向き合い方がわかりました


辰巳量平(たつみ・りょうへい)

シルクスクリーン印刷を用いてTシャツなどを制作。印刷にまつわる紙、文房具、インクなども制作し、印刷の可能性を追及している。印刷会社で勤務しつつ、残りの週日は「二日印刷」として活動中。シルクスクリーンワークショップや印刷イベントの企画運営を行う。「FREE PAPER CENTER」としてもときどき活動中。
Instagram@freepapercenter