アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

手のひらのデザイン 身近なモノのかたち、つくりかた、使いかたを考える。

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#141

はかる
― 見通真次

(2024.09.05公開)

01

スケールなのか、メジャーなのか、コンベックスなのか、呼び方は様々あるが子供の頃、親に教えてもらった呼び方はメジャー。そこから建築関係の仕事をするようになって大工さんがスケールと呼んでいたので、今ではスケールと呼んでいます。理由は、なんかプロっぽくてカッコいいから。コンベックスをコンベと言っている人もいる。それも良いかも。

そんなスケールがなぜか昔から好きで集めていて、いつのまにか小さいものから大きいもの含めて数えたら19個ある。実はもっとある。用途は全て同じ。ただ距離を「はかる」だけ。小さいころの親にもうひとつ教えてほしかった。「メジャーは一家に1個あれば十分」と。
無闇矢鱈に何かを「はかる」のがただ好きな訳ではなくて、その先の「つくる」ための「はかる」が好きなんです。

千葉市のマンモス団地、花見川団地商店街でものづくりができる工房を運営しています。その名も「ミトーリ工房」。
もうひとつ、会社員として団地のコミュニティづくりの仕事もしています。役職はコミュニティマネージャー。
もうひとつ、お笑い芸人として笑いづくりもしています。コンビ名はサンサンマルマル。

全部の活動が「はかる」もの。そんないろいろな「はかる」の距離が近くなってきた。

02

ものづくりで「はかる」
ものをつくるときに必要なのがスケール。いつも使っているのは、5メートルはかれてテープ幅が22ミリある丈夫なスケールです。その名も「GŌATSU」。名前の通り剛厚でテープを2.6メートル伸ばしても折れないのでかなりすごい。花見川団地商店街の空きテナントを借りて、会社員をしながら、「GŌATSU」スケールを使い、1年間かけてコツコツとつくったのが「ミトーリ工房」です。

半分はものづくりができる工房でもう半分はお土産屋さんと仕事のスペース。ものづくり工房は、団地の間取りに合うサイズの棚やテーブルをつくることができます。お土産は自分が住んでいる団地にお土産があったらいいなと。昔、子供の頃に地元の商店街でキラキラ光るカードやシールを狙って、ドキドキしながら買っていました。大丈夫です。ここではキラキラしか売っていません。

お店づくりも家具づくりもお土産づくりも、ものをつくるとき、デザインするとき、大きさや長さを「はかって」ものづくりをしています。

03

コミュニティづくりで「はかる」
ミトーリ工房にはいろんな人がふらっと入ってきます。パン屋さんで余ったパンを持ってきてくれる人。商店街に出店しようか迷っている人。世間話や仕事の相談に来る人。団地は昔ながらの良さがある。おじいちゃんおばあちゃんは多くなったけど、子育て世代の人たちもちょっとずつ増えている気がする。外国人もいます。
そんな団地の人たちとイベントの計画をして開催するとみんなが集まってきてくれます。子育て世代の家族。子供達。学生。外国人。高齢者。これって都会のイベントでこんなにも多世代の人が集まってくるのは無理なのでは? そう、これは地域や団地だけがもっているコミュニティ、「お祭り」です。都会のフェスティバルでもなくライブでもなく「お祭り」。

そんな「お祭り」をみんなで考える。どれだけ人が来るのか? どれぐらい売れるのか? どれだけ活動に参画してくれるか? 団地のみんなで「はかって」コミュニティづくりをしています。

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笑いづくりで「はかる」
そんなみんなが集まる「お祭り」ですが、昔は団地のお祭りってステージがあって芸人とか来ていませんでした? 地域の子供達の催し物やお父さんお母さんの演奏会、地元出身の手品師とか。
今では団地でステージをつくってなにかをすることが少なくなってきている気がするけど、もう一度地域の人たちみんなで「応援し合う場所を」、「感動する場所を」、「笑い合う場所を」つくりたい。

ステージをつくって漫才して、みんなが笑って自分たちも笑って、まちも笑って。
この世代の人たちはどんな話が面白いのか? みんなが笑ってくれる共通の面白さとは? 面白さの量を「はかって」笑いをつくっています。

ということで日々何かをつくるときに必要なのが「はかる」ということ。だからなぜかスケールが好きなんです。
とはならない。

ただただ、スケールというスタイリッシュな形の丸いものから機能的なものが出てくるのが好きなだけだと思います。
なので、カタツムリは普通、海外のぶどう味のロールのガムは美味しいからちょっと好き、スケールは機能的で大好き。


見通真次(みとおり・しんじ)

株式会社MUJI HOUSE勤務。無印良品の団地まるごとリノベーションでコミュニティ形成業務を担当。
千葉市花見川団地商店街でものづくりができるお店「ミトーリ工房」を運営。
https://mitoorikobo.com
松竹芸能のお笑い芸人として活動中(コンビ名:サンサンマルマル)。
https://www.shochikugeino.co.jp/talents/sansanmarumaru/