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アネモメトリ -風の手帖-

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#71

もっと“楽しい”保育園をつくる、美術作家の園長先生
― 木原圭

(2018.10.05公開)

「楽しくなければ、保育園じゃない!」を理念に掲げ、0歳から5歳までの160人の子どもたちが通う「おいけあした保育園」。京都のまちなかにありながら園庭にはさまざまな生き物が生息し、子どもたちは絵を描いたりものをつくったり活発に表現活動を楽しんでいる。ここで園長をつとめるのが、美術作家としても活躍する木原圭さんだ。木原さんは自らの経験を生かし、子どもたちに表現することの楽しさを教えている。その方法とは、一体どんなものなのだろうか? 特色ある取り組みを通じて、子どもたちへの思いを伺った。
園庭の子どもたち

自然の中で遊び、表現活動を楽しむ子どもたち

自然の中で遊び、表現活動を楽しむ子どもたち

———おいけあした保育園で大切にしていることを教えてください。

特に大切にしているのは自然の中で遊ぶことと表現活動です。自然の中に一緒に行くと、子どもたちは教えなくても何かに夢中になります。虫や土や植物など、興味をもったものを選んで自由に楽しみ方をみつけるんです。そうやって面白がりながら、いろんなことを能動的に学びとっていきます。
そして子どもたちが自然の中で発見したことや感じたことを、絵を描いたりものをつくったりして表現するんです。幼少期にこのインプット(遊びからの学び)とアウトプット(表現)をバランスよく経験することが、成長の過程でとても大事なことだと考えています。
現代は遊びでも学びでも、大人が子どもに一方的に何かを与えるという傾向があります。それよりも子どもが自発的に取り組んだ方が楽しくて、得られるものも大きいと思います。うちの保育園には「楽しくなければ、保育園じゃない!」という理念があります。楽しみながらできるインプットとアウトプットとして、自然の中で遊ぶことと造形のような表現活動が子ども達の成長にとって、有効なひとつの手段だと思っています。

ビオトープの生き物を観察する子どもたち

ビオトープの生き物を観察する子どもたち

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カエル

都会では珍しいカエルなどの生き物もたくさん生息する

都会では珍しいカエルなどの生き物もたくさん生息する

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園庭で実をつけている立派なかぼちゃやメロン

園庭で実をつけている立派なかぼちゃやメロン

園庭で収穫したキウイフルーツ(100個以上)とザクロの実(70個以上)

園庭で収穫したキウイフルーツ(100個以上)とザクロの実(70個以上)

———園庭には京都のまちなかとは思えないほど多く植物がありますね。

園庭にはできるだけ自然を充実させたいと思っています。12年前に水を張ったビオトープも、最初は連れてきた生き物からだったのですが自然の環境を再現することでカエルや、アカハライモリ、メダカなどが、今では人が世話をすることなく自然に住みついています。生き物は繁殖して世代を重ねていますし、カエルは園庭の畑で冬眠して冬を越します。ようやく自然な生態系ができつつあります。
からは鳥がやってきて生き物を食べてしまうこともありますが、トンボが卵を産んで幼虫のヤゴが棲みついたり、アメンボも飛んできたりするようになりました。ここだけで完結しない外の自然とつながった環境ができつつあります。
植物はキウイやメロン、かぼちゃなど食べられるものを多く植えています。中央の桜はサクランボがなる品種で、5月のはじめの2週間くらいは食べ放題になるほど沢山実をつけます。なるべく背丈を低くしているので子ども達と一緒に採ってその場で食べています。奥にはザクロの木がありますし、ミカンの木には実がなることはもちろんアゲハ蝶が卵を産みにきます。幼虫をみつけたら、羽化するまで子どもたちと室内で観察し飼っているんですよ。
僕は子どものころから自然の中で遊ぶことが大好きでした。自然の中で虫を追いかけて、捕まえて飼ってみる事で、本当に多くの驚きや発見があります。子どものころに自然の中で思い切り遊んだ経験が、今でも自分の園の将来設計に大きく影響しています。子どもたちにも、そんなわくわくドキドキした毎日を過ごして欲しいと思っています。

園庭の畑を耕す子どもたち

園庭の畑を耕す子どもたち

できたキャベツを収穫する

できたキャベツを収穫する

サクランボと子どもたち

サクランボを木から直接もぐ子どもたち

サクランボを木から直接もぐ子どもたち

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子どもたちも手伝ってつくったツリーハウス型遊具

子どもたちも手伝ってつくったツリーハウス型遊具

———ビオトープのそばには立派なツリーハウス型の遊具もありますね。

今年できたツリーハウス型遊具は、こぶしの木の周りにウッドデッキのようなスペースを設けました。箱型の窓からビオトープの真ん中を見下ろして、そこに住む生き物達の自然な様子をひっそりと覗けますし、上を見れば木にとまっている蝉が少しだけ捕まえやすくなるという、いわば子どもたちが自然に一歩近づくためのものです。でもここに上がるには、枝のないつるつるとした杉の化粧柱の丸太を登るしかありません。
これがなかなか難しく力と工夫がいるんですが、あえてわざと登りにくくしているんです。高いところに簡単に登れると、すぐに落ちて怪我をしてしまいます。苦労して登ってこそ落ちると危ない高さだということがわかるんです。
園庭には平坦なところを極力なくし築山もつくって、あえてでこぼこにしています。ですから子どもたちは転んですりむくこともあります。でもその小さな怪我で何が危険なのか身をもって学びます。全く怪我をせずに育つと、あとで急に大きな怪我をしてしまいます。
保育園に通っている時期は人生の練習期間だと思っています。だからこそ、楽しいことだけじゃなく、いっぱい失敗して悔しい思いもしてもらいたんですね。こうなりたいという目標があっても、いきなり成功することはありえません。小さな怪我が大きな怪我を防ぐように失敗から学べることもたくさんあります。ですから保育園の期間は失敗させないのではなく、いくらでも失敗できる環境が必要なんです。

———美術作家でもある木原さんが、保育園に関わるようになったのはなぜですか?

僕は京都造形芸術大学に入って彫刻をはじめました。金属を溶接したり、樹脂を固めたりして立体造形物をつくっていました。表現方法は変わりつつありますが今でもこの仕事の合間に制作と発表を続けています。
保育園と関わるようになったのは、ものづくりを教えるようになったことがきっかけです。僕の父親が別の保育の園長をしていたのですが、当時は親の保育園で働こうなんてまったく思ってもいませんでした。ところが、ある保育士さんから子ども達のつくる作品を長く残したいという相談を受けました。それまで子どもたちがつくっていたものは、保育士さんの技術で作るのであまり丈夫ではなく、すぐに壊れてしまうものでした。そこで大学で学んだ技術が少しは活かせるかなと、まずは陶芸をやってみて卒園制作という形で保育園に残る作品作りをしました。次に自分の好きな音楽の分野で、丈夫かつそこそこ音も出せる本格的な楽器をつくってみようと思ったんです。
まずは太鼓の試作品をつくって、それを子どもたちと一緒に制作し、完成後はいっぱい遊んでみました。その後ギターやさまざまな楽器を子ども達と制作すると、子どもたちも大いに楽しんでくれましたし、僕もとても楽しかったんですね。それから18年、造形の講師として、今は園長も兼ねて保育園に関わっています。
楽器作り1 楽器作り2

子どもたち自ら木材を切り、釘を打って楽器をつくる

子どもたち自ら木材を切り、釘を打って楽器をつくる

楽器完成1

完成した楽器の数々

完成した楽器の数々

———楽器づくりは今も続いているのでしょうか?

今でも年長児は楽器をつくって演奏するということをやっています。ペルーの太鼓のカホン、親指で棒をはじいて音を出すアフリカのカリンバ、そしてギターなど、その時の子どもがつくりたい楽器を自分自身で考えます。チェロや笛、木琴をつくったこともあります。どの楽器も全て最初からの手づくりで、ギターなどは木材をのこぎりで切りだすところから子どもたちが全て自分でつくるんですよ。
物があふれている時代だからこそ、自分の手でものをつくる意義があると思っています。それは彫刻を学んだからこそ感じたことだと思うのですが、幼少期にした経験も関係しています。僕は子どものころのある時期にローラースケートが欲しかったんですが、親が買ってくれなかったんです。でも父親が「そんなに欲しかったらつくろう」と言って、一緒につくってくれました。できあがったものは下駄にローラーがついたような不格好なものだったんですが、自分でつくったというだけでとても誇らしかったんですね。
頑張ってつくったものは愛着がわくし、作り手の気持ちもわかります。そしてものを大事にしようと思うんです。子ども達にもそういうことを感じて欲しいですね。
実際に高校生になった卒園児から、手づくりの楽器を大事に家に置いているという話を聞いたことがありました。自分が関わったものをそんなに大切にしてくれているなんて、本当に嬉しいし、またときどき大きくなった卒園児から楽器の修理依頼もきたりします。なんて幸せなことなんだと思います。
ギター演奏1

自分でつくったギターを演奏する子どもたち

自分でつくったギターを演奏する子どもたち

———つくった楽器は本格的な音が出るんですね。

ギターは1弦ですが、先っぽのネジでチューニングもできてちゃんとメロディを弾くことができます。カリンバは棒の長さで音階を調節できますし、カホンは中にちょっと仕掛けをしてスネアドラムのような音が出ます。またそれぞれの楽器をアンプに繋いで、大きな音も出すことができます。
僕は若いころにドラムやパーカッションをやっていました楽器は大人でも夢中になる本当に奥の深いおもちゃなんです。1曲ひけるようになると、2曲3曲と弾きたくなります。そのうち長い曲も弾けるようになりますし、いつまでも遊びこめます。子どもたちは楽器をつくったあと、好きな曲を練習して「表現まつり」と呼んでいる発表会で演奏します。
「表現まつり」では創作劇も発表します。こちらが用意したお話を子どもたちが演じるのではなく、ストーリーも一緒に考えます。その年に印象に残ったこととか日常生活で発見したことなどを、絵本のお話をベースにしたり、混ぜたりしてつくっていきます。「こんな虫をとったよ」とか単純なことだったりするんですが、実体験を表現することでその楽しさを感じられるように工夫しています。

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陶芸をする子どもたちと完成した作品

陶芸をする子どもたちと完成した作品

———他にはどんなおまつり」があるのでしょうか?

「表現まつり」のほかに「造形まつり」「運動まつり」という3つがあります。京都三大祭りにかけて、おいけ「三大まつり」と呼んでいます。これは子どもも親御さんも職員もみんなで子どもの成長をお祝いしようという意味で「おまつり」なんです。
「造形まつり」では「子どもが先生になれる」というのがコンセプトです。例えばふだん子ども達が陶芸をやってきたとします。そのおまつりでは粘土のコーナーがあって子どもがお皿のつくりかたを親に「こうやるんやで」って教えながら一緒につくります。一度経験があると子どもたちが親に何かを教えるという体験ができて、子ども達はより学びが深まり、親御さんも子どもたちの日々楽しんでいることを実体験として感じられます。
また「運動まつり」も、ただの運動会ではありません。プログラムから子どもたちと一緒に考えます。今年は筋トレのエクササイズみたいなことをしようと思っています。というのも、どうしてもツリーハウスに登れない年長の子がいるんですね。その子が何をすれば登れるかと考えたところ、レスキュー隊のように力をつければ登れるようになるのではないかと言うんですそこでトレーニングをかねて、エクササイズをするのですが、それを運動まつりのプログラムとして発表するという目標にし、頑張ってみようということになりました。そんな目標を自発的に持った子がこのプログラムに参加します。今年はその他にも歌って踊りたい子が集まって自分たちで振り付けを考えているダンスチームもできています。
教えられたことをそのまま発表してもやはり想いがこもっていないものは、みている方もやっている方も面白くないですよね。実際に感動したことを表現するから、面白いものが生まれるんです。ですからいいアウトプット(表現)をするためには、いいインプット(遊びからの学び)が必要なんです。

2016年にメキシコで開催した個展にて

2016年にメキシコで開催した個展にて

———木原さんご自身はどんなインプットを心がけていますか?

やはり子どものころから自然が好きなので海に潜って綺麗な魚を採り、小さな幼魚から飼育をしていて、その一部を保育園にも置いています。多肉植物や珍しい植物も好きで育てています。また最近は昔の友人が海外での展覧会に呼んでくれるというなんとも幸運な機会に恵まれています。展覧会に参加することで作品を通して意見交換ができて、まったく違った環境で生活してきた人と対等に意見をぶつけあえるし、そのことで今世界で起こっている事象などの見方が深まって、結果今までと違った自分に変われるチャンスをもらえると思っています。海外での展覧会は学生時代に強く想っていた夢で、これが今の僕にとっていいインプットになっていると思います。
海外に行くようになったのは、大学卒業後に3年間、交換留学でメキシコに行ったことがきっかけです。メキシコを選んだのは、ラテン音楽好きというのもありますが、日本とはかけ離れた環境や考えに出会いたかったからです。メキシコでは本当に根本的にものの考え方が違っていました。
例えばよく言われることですが、時間の感覚がすごくゆったりしているんです。お昼ご飯の時間が2時間とか3時間もあります。日本人の感覚だと大丈夫かなって思うんですけど、それでも社会は回っているんですね。人生で何をいちばんにもってくるかということが違うんです。メキシコでは人生を楽しむということが最優先なんです。こういう生き方もあるのかと衝撃を受けて、その後の考え方にすごく影響がありました。
日本で生活していると「こういう人生を歩まないといけない」という狭い枠にとらわれがちです。子どもたちにはひとつの価値観を押しつけず、多様性の中で大きくなって欲しいんです。いろんな価値観があるのは当たり前だという意識をもって、自由に育ってほしいですね。

自然の中でこれから虫を捕る

自然の中でこれから虫を捕る

デザインの専門学校でドレスを触る子どもたち

デザインの専門学校でドレスを触る子どもたち

———大人が敷いたレールの上をすすむことだけが人生じゃないということですね。

そうですね。僕はそれをフィールドとレールという言い方をしています。これは子どもたちが自由に活動できる安全なフィールドを僕らが用意することで、子どもたち自身が自分の考えでレールをひいていくというものです
そのひとつとして行っているのが年長児のお泊り保育です。普通は山に行ってキャンプをするなど、事前に決まっていることが多いですが、うちの保育園では毎年行き先が決まっていないんです。子どもたちやってみたいことや行ってみたい場所を、担当保育士が一緒に考えながら行き先とプログラムを決めるんです。30名のクラスで行き先は大体毎年3つくらいに分かれるのですが、川で魚を捕りたい子、山で雲の上に行きたい子、あこがれの職業の人に会いに行きたい子など希望がそれぞれあります。実際にデザイナーの専門学校で服を縫っているところや消防署で訓練しているところを見学したこともあります。はじめから決まっていることより、興味あることを自分で深め実際に体験することのほうが得られるものは多いと思いますし、何より楽しいですよね。

———今後の目標を教えてください。

今の保育園の楽しみをもっと深めていきたいです。園庭はさらに改良する予定ですし、まだまだ楽しくなる工夫をしていきたいし、まだまだその余地が沢山ある。この「楽しくなる」というのは、子どもたちはもちろん、親御さんや保育士といったうちの保育園に関わる全員を指しています。僕自身も子どもたちと一緒に楽しんでいますし、働いている保育士もやりたいことをどんどんやってほしいと思っています。
好きな絵が自由に描けるのが楽しいのと一緒で、子どもたちをはじめ、関わった人みんなに自己実現をしてほしいと思っています。はじめにお話ししたように、うちの保育園には「楽しくなければ、保育園じゃない!」という理念があります。これをさらに深めていくことが、僕のやるべきことだと思っています。楽しいことは次に繋がっていきますしね。

取材・文 大迫知信
2018.8.5 おいけあした保育園にてインタビュー
rプロフィール

木原 圭(きはら・けい)

京都市出身。1997年京都造形芸術大学美術科彫刻コース卒業。翌年から3年間、メキシコの国立芸術大学に研究生として在籍。その後、美術作家として活躍を続け、国内外で展覧会を行い受賞も多数。
2001年に父親が園長をしていた西京極保育園の保育士の依頼により、園児たちとものづくりをはじめる。2006年においけあした保育園が開設され、その後園長となる。「楽しくなければ、保育園じゃない!」を理念に掲げ、自らも子どもたちと触れ合いながら表現活動の楽しさを伝える。また園庭にビオトープを整備するなど、自然の中で遊ぶことを重視。子どもたちが自ら興味を持ったことに取り組める環境とプログラムづくりに力を入れる。


大迫知信(おおさこ・とものぶ)

京都造形芸術大学文芸表現学科を卒業後、大阪在住のフリーランスライターとなる。国内外で取材を行い、経済誌『Forbes JAPAN』や教育専門誌などで記事を執筆。自身の祖母がつくる料理とエピソードを綴るウェブサイト『おばあめし』を日々更新中(https://obaameshi.com/ )。2018年度より京都造形芸術大学非常勤講師。7月23日発売の月刊誌『SAVVY』9月号より「春夏秋冬おばあめし」を連載中。