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アネモメトリ -風の手帖-

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#168

3D印刷でつくられた橋
― 中国 上海市

上海市内中心から少し離れた地域にあるITパーク「智慧湾」に中国3D打印文化博物館(China 3D-Printing Cultural Museum)があります。3D印刷でつくられるものといえば、フィギュアや玩具、建設関連では立体模型図などを思いつきますが、3D印刷に特化した博物館は珍しいということで、観覧してきました。
館内では、3D印刷の技術や機械の説明に加え、実際に建築模型を印刷する様子が目の前で見られたり、型を選んで出来た3D印刷製のチョコレートを食べれたり、キッズ体験スペースもあるなど、充実していました。また、この技術でつくられたアート作品や4D技術によるファッションデザインも展示されていました。
なかでも驚いたのは、コンクリートを3D印刷の素材として、橋をつくるプロジェクトです。2019年1月に博物館があるエリア内の池に、本物の橋が建設されました。全長26.3m、アーチの長さ14.4m、幅3.6mで、古代中国の趙州橋の形状をモデルとしています。まさか、本当に3D印刷技術で人が渡れる橋が出来るとは想像がつきません。橋全体をプリントするのにかかった時間は450時間で、橋の建設にかかる時間とは到底思えないスピードです。
実際に遠くから橋全体を見ると、いたって普通の石橋に見えます。しかし、近づいてよく観察すると、コンクリートがひとつひとつ層を成しているのがはっきりと見えます。博物館で観察した3D印刷機と同じように、1層ごと積み重ねて印刷されています。まさに、3D印刷でつくられた模型そのまま大きく実現してしまったようで、好奇心がくすぐられました。
中国の建設現場で昔良く見られた竹による足場を連想したのですが、竹の足場は、繊維に対して垂直方向に人が立つと、しなることはあってもけっして折れないというイメージがあります。一方、3D印刷で出来たこの橋の形状では、縦方向に力が加わると、その部分が抜けてしまうのではというイメージが浮かびますが、実際のコンクリートは頑丈ですので、そのようなことはありません。実に不思議な感覚になりました。
この橋が開設された当初は、人が実際に渡っており、橋に100人程度った写真がネットニュースに掲載されています。残念ながら現在は、橋を渡ることは禁止されています。古き時代の橋の形状を、今まででは考えられなかった最新の技術で模された橋、叶うなら是非、自らの足で渡ってみたかったのが心残りです。

飯田一憲)

中国3D打印文化博物館(China 3D-Printing Cultural Museum)
住所:上海市宝山区
川路8号(智慧湾科园内)
開館時間:9:30-16:30(16:00最終入場、月曜日休館)
公式サイト(中国語):https://mp.weixin.qq.com/s/Df9LenzlwaI2O4pkHl14uQ

中国3D打印文化博物館

中国3D打印文化博物館

3D打印混凝土歩行橋 全景

3D打印混凝土橋 全景

3D打印混凝土歩行橋 局部アップ図

3D打印混凝土橋 局部アップ図