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アネモメトリ -風の手帖-

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#122

小川和紙の里
― 埼玉県小川町、東秩父村

水のきれいな川が流れている“山間の静かな里というのが、紙漉きの里の条件といわれています。
外秩父の山々に囲まれた埼玉県西部の槻川(つきがわ)沿い小川町や東秩父村(県内唯一の村)は、まさにその条件にぴったりな自然に恵まれた山里です。
この地域の和紙については、奈良時代の正倉院文書に「武蔵国紙四百八十張、筆五十管」と記されていることから、その歴史は8世紀に遡るとされています。
生産される「小川和紙」の中でも、国内産楮(こうぞ)を原料とし、伝統的製法と用具を用いて作られる強靭で丈夫な手漉き和紙の「細川紙」は、その製法技術が1978年に国の重要無形文化財に指定され、2014年には岐阜県の「本美濃紙」、島根県の「石州半紙」と共に「ユネスコ無形文化遺産 和紙:日本の手漉き和紙技術」として登録されました。
私が訪れた小川町観光案内所には、特産品の様々な和紙が置かれていましたが、「細川紙」に実際に触れることができ、その薄く柔らかな質感に大変驚かされました。しかも丈夫で水にも強いため、江戸時代には役所の帳面や台帳、商人の大福帳などに広く利用され需要も多かったようです。現在でも、文化財や古文書の補修には欠かせないものとなっています。
「小川和紙」の紙漉き家は、明治時代には1000軒を超える程あったそうですが、現在では十数軒になってしまいました。その中でも「細川紙」を漉く「細川紙技術者協会」の正会員は7名しかいません。「細川紙」の原料となる国産楮も、以前はこの地域に自生していたそうですが数を減らし、現在では高知県や茨城県など他県から調達しているということです。
1300年もの長い間受け継がれてきた貴重な紙漉き技術が、今後も途絶えることがないよう切に願うばかりですが、今回「ユネスコ無形文化遺産」がこれほど身近なところにあったことが分かり、自分自身にも何か支援できることはないかと考え始めました。
まずは、素朴で温かみのある和紙を生活に取り入れて、暮らしを豊かにしてみたいと思います。

(小野行幸)

「小川町和紙体験学習センター」(旧埼玉県製紙工業試験場)での楮さらしの様子

「小川町和紙体験学習センター」(旧埼玉県製紙工業試験場)での楮さらしの様子

江戸末期の建物を移築復元した「細川紙紙漉家屋」(東秩父村「和紙の里」)

江戸末期の建物を移築復元した「細川紙紙漉家屋」(東秩父村「和紙の里」)

和紙漉き技術を見学・体験できる施設 東秩父村「和紙の里」

和紙漉き技術を見学・体験できる施設、東秩父村「和紙の里」

参考

小川町役場
http://www.town.ogawa.saitama.jp

小川町観光協会
http://www.kankou-ogawa.com

東秩父村役場
https://www.vill.higashichichibu.saitama.jp

東秩父村「和紙の里」
http://www.washinosato.co.jp