さいたま市緑区南部領辻(なんぶりょうつじ)の鷲(わし)神社では、毎年5月と10月に「竜頭の舞(りゅうずのまい)」という変わった獅子舞が奉納されています。
鷲神社は、さいたま市東部の広大な緑地帯「見沼たんぼ」の近くにあります。この周辺は古代、東京湾につながる入江だったところで、そこから無数の沼や湿地ができて見沼が誕生したと言われています。その後、江戸時代中期の新田開発によって「見沼たんぼ」が生まれ、農業用水確保のために利根川から水が引かれてきて、東縁と西縁に見沼代用水が整備されました。
このように、「水」が人々と密接に関わる土地柄のせいか、見沼には水の化身である竜神伝説が多く残されています。「南部領辻の獅子舞」も頭が竜で、あるときは優雅にあるときは地を這い、竜が天に昇るように激しく勇壮に舞うことから、別名「竜頭の舞」と言われています。
言い伝えでは、900年ほど前に武将源義光が兄の源義家を助けるために奥州に下向した際、軍兵の士気を鼓舞するために舞われ、これを鷲神社に奉納したのが始まりだとされています。昭和44年を最後に一時途絶えましたが、地元の皆さんが保存会を立ち上げて猛練習の末、30年ぶりに復活させたということです。
獅子舞の一行は、天狗や笛方、3頭の獅子(太夫獅子、女獅子、中獅子)など10人で構成されており、神社の庭に四隅に竹を立て二間四方の注連縄を張った中で約1時間半もの舞を舞います。3頭の獅子は、東天紅という鶏の羽根でできた長い頭髪を後ろに垂らし、お腹には桶型の大きな太鼓をつけて舞うため、通常の獅子舞とは大きく異なります。中でも、いちばんの山場である無病息災、五穀豊穣を願って太夫獅子が舞う神楽は、神が宿ったかのように髪を振り、御幣を掲げて激しく舞うためとても見応えがあるもので、私が行ったときも見学者から多くのお捻りが投げ込まれていました。
さいたま市指定の無形民俗文化財であるこの貴重な獅子舞が、今後も継承されていくことを願ってやみません。
(小野行幸)
参考
さいたま市 文化財紹介 南部領辻の獅子舞
http://www.city.saitama.jp/004/005/006/001/019/012/003/p001231.html
南部領辻の獅子舞保存会発行のパンフレット『南部領辻の獅子舞』