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アネモメトリ -風の手帖-

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#165

伝統野菜 仙台曲がり葱
― 宮城県仙台市

この季節、仙台市内の青果店では、大きく曲がったネギが販売されているのを見かけます。弧を描くように曲がったネギはB級品かと思いきや、通常のまっすぐなネギより少し価格が高くなっています。見た目のとおり「曲がり葱」という品種は、実は100年もの歴史がある仙台の伝統野菜なのです。
ネギが曲がって育つのは、「やとい」という栽培技術によるものです。この農法は明治時代末期から大正初期にかけて確立されたもので、仙台市の余目地区が発祥の地とされています。一般的な「一本立ち」というネギの栽培方法は、成長に合わせて土を寄せて畝を作り、まっすぐに育てていきますが、この地域は地下水が地上近くにあり、深く植えることができません。さらには、水はけが悪く湿度が高いため、ネギの栽培には不向きな環境でした。そこで考案された「やとい」は、ある程度育ったネギを一旦抜き取り、傾斜を付けた畑に寝かせて置き、その上から土を被せて育てるというものです。斜めに埋められたネギは天に向かって伸びるため、曲がって成長していきます。また、一度抜き取ったことで根が再生するため甘くなり、ネギの白い部分が地中にあることで柔らかさが増し、歯触りがよくなるなど、良いことずくめの効果がもたらされたのです。不向きな土壌を逆手に取り、手間をかけて栽培した曲がり葱は、美味しいと評判になりました。当初は地名をとって「余目葱」と呼ばれましたが、その後「仙台曲がり葱」という名称に統一され、広まっていったのです
仙台曲がり葱の最大の特長は、加熱するとコクが増し、とろけるような食感になることです。薬味として使用するのはもちろんのこと、さまざまな料理にアレンジが楽しめます。寒い時期に嬉しい鍋物にも最適ですし、酢味噌和えやベーコン巻きなど、一品料理としても大活躍します。寒さの厳しい1月から2月にかけて、仙台曲がり葱は旬を迎えます。今現在も地中で甘みを蓄えながら、続々と出荷され、冬の食卓を彩っているのです。

(成田有紀子)

店頭に並ぶ仙台曲がり葱(仙台朝市にて)

店頭に並ぶ仙台曲がり葱(仙台朝市にて)

通常の葱(右)と仙台曲がり葱(左)

通常の葱(右)と仙台曲がり葱(左)