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アネモメトリ -風の手帖-

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#130

タイムトンネルの入り口 京成電鉄「旧博物館動物園駅」
― 東京都台東区上野

上野の東京国立博物館から東京藝術大学に向かう途中に、国会議事堂を小さくしたような建物があるのを皆さんはご存知でしょうか。小さいながらも荘厳で重厚な外観から察するに東京国立博物館の一部のようでもありますが、この建物は、現在は廃止となった京成電鉄の「旧博物館動物園駅」なのです。
1933年(昭和8年)12月に、京成線の日暮里と上野の間の駅として開業しましたが、鉄道敷設の際に上野公園内の地上部の走行が許されず地下駅となりました。また、駅舎建設予定地が皇室で代々引き継がれてきた「世伝御料地」という特別な土地であったことから、建設には御前会議にて天皇陛下の勅許を得なければならないなど、多くの困難があったそうです。
開業当時は帝室博物館(現東京国立博物館)や上野動物園の最寄り駅として多くの人に利用されましたが、利用者の減少やホームが短いといった理由で1997年(平成9年)に営業を休止し、2004年(平成16年)には廃止となりました。
廃止後も開かずの駅として当時の姿を残していましたが、2018年(平成30年)に「東京都選定歴史的建造物」に選定されたことから、駅舎がリニューアルされ、文化・芸術の創造の場として一般公開が始まりました。今年度も8月と10月にアートイベントが開催されたので、筆者も行ってみました。改めて建物をよく見ると、入口の扉の脇には古代ローマの円柱のような柱が立っていてとても豪華です。またピラミッド型の屋根の周囲は意匠を凝らした装飾で飾られていて、その内側は美しいドームになっています。階段で地下に下りていくと内部は当時のままで、まるでタイムスリップしたかのような感覚になります。さらに立ち入り禁止の地下のホームは現在でも京成線の電車が通過するため、時折ゴォーッという音が建物内に響き、まるでインスタレーション作品の効果音のようです。
過去と現在をつなぐような不思議な空間「旧博物館動物園駅」が、今後どのように利用されていくのかとても楽しみです。

(小野行幸)

参考
京成電鉄 旧博物館動物園駅
https://www.keisei.co.jp/keisei/hakudou/index.php

京成電鉄「旧博物館動物園駅」駅舎外観

京成電鉄「旧博物館動物園駅」駅舎外観

地下に下りる階段。大洲大作「未完の螺旋」展のインスタレーション作品

地下に下りる階段。大洲大作「未完の螺旋」展のインスタレーション作品

駅舎エントランスホール(「メタル・サイレンス」の展示作品とドーム型天井及び日比野克彦氏デザインの扉)

駅舎エントランスホール。「想起の力で未来を:メタル・サイレンス2019」展の展示作品とドーム型天井及び日比野克彦氏デザインの扉