奈良県の南西部に位置する五條市は、吉野川流域の風光明媚な南朝ゆかりの地にあり、大阪から車で約1時間で着きます。
この地には国の重要無形民俗文化財に指定されている「陀々堂(だだどう)の鬼はしり」という修正会結願の行事(旧年の罪障や穢れを祓い、新年の平安と豊穣を祈る法要)があります。
主役は3体の鬼(赤鬼、青鬼、茶鬼)。注目に値するのは、非常に大きな鬼面を被って松明を振りまわすダイナミックさ、そして節分の鬼に代表される”追われる疫鬼”ではなく逆に”厄を追い払う福鬼”という点でしょう。
民俗学者によると面の”目”の大きさは神通力の大きさをあらわしているといい、陀々堂の鬼面の大きな目は、結願に対する民衆の期待がいかに大きかったかが伺い知れます。
また、”鬼”は古来中国より祖先の霊の姿として伝わり、後に陰陽道の影響で疫鬼に変わったというのが定説です。鬼はしりの正確な起源は不明ですが、日本古来の信仰の姿をそのまま伝える貴重なものとなっています。
さてこの行事は、毎年1月14日に五穀豊穣と除災招福を祈って昼と夜の2回行われます。
昼の鬼はしりは大般若経の転読が午後4時過ぎにはじまり、火がついていない松明をもった3体の鬼が堂内を1周して厄払いします。
本番の鬼はしりは午後9時ごろからはじまります。大般若経の転読のあと、阿弥陀如来の面をつけた火天役とよばれる先導者が、火のついた松明で宙に水の文字を書く行を合図に、燃えさかる大松明を抱えた3体の鬼が登場します。
そして読経と太鼓、法螺貝やお堂の板壁を叩く音が響く中、鬼達は堂内が火災になったかと見間違うほど大きな炎になった松明を力の限り振り回し、境内に火の粉をまき散らしてクライマックスを迎えるのです。
このあと火を消す「火伏の作法」のために井戸に行きますが、鬼の装束に巻きつけていた紙コヨリを持ち帰ると厄除けになるというので、参拝者が我先にと争って奪い合う光景も見所のひとつです。
近年では昼に「子ども鬼はしり」も行われていて、後継者育成も余念が無いということです。
(有田若彦)
Web:五條市
http://www.city.gojo.lg.jp/www/contents/1451969990860/index.html