マンハッタンから車で４–５時間真っ直ぐ北へ向かうと、自然豊かなアディロンダック州立公園があります。ハイピークスと呼ばれる46の山々が連なり、湖も多く、季節を問わずアウトドア・レジャーに人気のエリアです。中でも歴史が古いまち「キーン（Keene）」の人気が高まった理由は、隣接するキーン・バレーも含め、46の山々半数以上へのアクセスが良く、オーセーブル川や湖を有する谷間の穏やかな環境にあったことでした。
高速の出口を降りて約20分走ると、国道はさらに奥地へ入る道へ分かれていきますが、その三叉路角に「ダート・ブルック・ラスティック・グッズ （Dart Brook Rustic Goods）」があります。オーナーのジェイ・ホーズ（Jay Haws）は、米国最大手の百貨店でキャリアを積んだ後、この地に移住し、2008年に店舗をオープンしました。ジェイの店で主に扱うアディロンダック・スタイルの家具やインテリア雑貨には、この地に長年伝わる意匠がみられます。製材しない素のままの木材を家具の脚に使い、フレームやテーブルトップのトリミングなどにも使用するのが特徴といえるでしょう。樺の木皮や、粗野な木の節が独特な雰囲気を醸し出します。それらをメインに、店内には、アンティークや日常使いの小物、ギフトにもなりそうな雑貨が満載です。

この店のもう一つの魅力は、オーナーであるジェイのセンスと人柄にあります。店内に足を踏み入れると、そこはもうジェイのワールド。同じものでも、見せ方によって見え方が違ってくることは度々ありますが、ここではそれが頻繫に起きています。前述のアディロンダック・スタイルを例にとるなら、粗野な造りを、落ち着いた素朴な雰囲気で、けれど魅力あるデザインに仕立てています。一つの雑貨が彼の手で他のものとコーディネートされると、異なる一面が引き出されます。それらがまた一つと繋がってゆき、ダート・ブルックの世界が作り出されていくのです。「ハロー！」と共に、いつでも笑顔の出迎えが待っていて、欲しいものを相談すれば適切なアドバイスがもらえます。この店の人気の秘訣は、そんなジェイ自身にもあるのでしょう。

参考
ダート・ブルック・ラスティック・グッズ （Dart Brook Rustic Goods）
https://www.dartbrookrustic.com

Arthur S. Knight ed., Adirondack Guide, Adirondack Resorts Press, Inc., New York, 1945, pp263-267

（福寿美佐）