海外旅行に出かけて現地を食べ歩くのも楽しいことですが、長期滞在となれば時々食べ慣れたものが恋しくなります。北京に暮らして10年以上になり現地の味にも慣れましたが、普段はやはり食材を買い自分で料理します。特に和食にこだわるわけではないですが、日本ではすぐに手に入る野菜や海鮮なども、現地のスーパーには置いていません。そんな食材を求めしばしば訪れるのが、「三源里市場」です。
1992年にオープンしたこの市場は、すでに30年以上の歴史があります。営業時間は8時から18時、近所の別の市場は14時には閉店してしまうので、ここは少し遅くまで営業しています。規模は大きくはありませんが、それでも店は130余り出店しています。各国大使館の集まる朝陽区の一角にあり、周辺には多くの外国人が住んでいるので様々な国の珍しい食材を揃えています。例えば、きのこ専門店では松茸やトリュフなどが並んでいたり、食用の花の専門店やハーブも多彩に取り揃えられています。スーパーでは見られないものが陳列されているので眺めるだけでも楽しめます。どれも少々高価ではありますが、日本の食材も種類が豊富なので重宝しています。
とはいえ、輸入食品以外に普通の肉や野菜も販売しており、新鮮な食材を求め周辺の住民も買い物にやってきます。このような市場は以前いくつもありましたが、近頃はめっきり減少してしまいました。その大きな理由の一つは、買い物の習慣が変化したことでしょう。アリババや京東(JD)など急速なネットショッピングやデリバリーの発達により、スマホで簡単に買い物ができるようになりました。しかし、市場はとても活気が溢れ、市場でしか味わえないものがあります。客と店主が直にやり取りをし、値段交渉をすることもあるし、五感をフル活用し新鮮なものや欲しい物を探し、珍しい物を見つけた時はまるで宝物を見つけたような気分になります。指一本で買い物ができる時代ですが、この三源里市場はこれからも北京に住む世界の人々の台所を支えるためにも生き残ってほしいと願います。
(厳 有佐)