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アネモメトリ -風の手帖-

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#160

中国漫才「相声」の聖地へ
― 中国 天津市

天津という街を端的に紹介する言葉に「天津三絶」(1)と「听茶館相声」があります。名物の3品を食すことと、中国漫才の「相声」を聞くことを示しています。例えば、大阪なら「たこ焼き、お好み焼き、串かつを食べて、NGKで漫才を見る」という感覚でしょうか。
清の時代から始まったとされる相声は、伝統的な話芸として天津で特に発展し、著名な芸人を数多く生み出しました。現在も市内に30軒ほどの相声専門の劇場があり、毎日のように公演しています。相声の聖地ともいえる天津へ行く機会がありましたので、劇場へ訪れてみました。
今回訪れた「極品相声帮」は、観光客で賑わう鼓楼近くにあります。茶館スタイルの劇場で、四角い卓を囲うように座り、中国茶を飲みながら鑑賞します。レトロな雰囲気に包まれ、横壁には「津門笑林」という書と芸人のサインがびっしりあります。この日のお客さんは、地元の家族連れに加えて、大型連休中の観光客でいっぱいです。意外と若いお客さんが多いことに驚きながら、公演開始に期待が高まってきます。
最初に登場したのは、「快板」(2)という、軽快なリズムに節をつけて歌う伝統芸でした。その後、「対口相声」(3)という2人組の漫才師が5組登場しました。面白いのは、女性司会者の存在です。前説として演者と演目を紹介する他に、最後のサゲを言ったらすかさず、司会者が舞台袖から再度登場します。一旦帰ろうとする演者に留まるように合図をし、お代わりネタを促します。演者は短いネタを再度披露し、大喝采を受け舞台袖へ下がります。盛り上がりを上手く持続させ最高潮へ導く、女性司会者の絶妙な演出に魅了されました。
出演した芸人は実に若く、伝統的な相声の衣装を颯爽と着こなし、笑いをかっさらう姿はカッコよく見えます。流行歌の替え歌や、歯の治療でしゃべれない様子をコミカルに取り入れるなど、中国語がわからない自分でも、大いに笑うことが出来ました。遠方からのお客さんを見つけ、「天津三絶」と「听茶館相声」について知ってますかと尋ねると、「それ以外に天津に魅力はないです」とオチをつける鉄板ギャグも聞けました。
翌日、天津市内中心を流れる川辺を散歩していると、馬三立(3)の銅像を見つけました。20世紀を代表する相声の大名人が、天津の日常風景にひっそりと佇んでいました。現在再ブームが訪れているといわれる相声ですが、実際に天津の街を訪れてみると、伝統が劇場中心に脈々と伝わり、いかにこの街に慣れ親しんでいるかということが分かりました。活気に満ちた若い芸人と、いっぱいの観客が元気に笑い飛ばす様子を見ると、ここが中国漫才の聖地に違いないと実感できました。

(飯田一憲)

極品相声帮(天街店)
住所:天津市南開区鼓楼天街古玩茶芸珠宝街29号楼6門
公演情報:基本、毎夜公演。週末のみ昼夜2公演。昼14:30-17:00、夜19:30-22:00。
公式ブログ(中国語):https://weibo.com/p/1006065963556814/

(1)
「天津三絶」:天津を代表する3つの名物料理のこと。「狗不理包子」(肉入りの饅頭)、「十八街麻花」(小麦粉を練り上げ揚げたお菓子)、「耳眼炸糕」(あん入りごま揚げだんご)の3つ。

(2)
快板:「天津快板」として有名な民間芸能。竹でできた楽器を叩き軽快なリズムを取る。即興歌や物語を韻を踏みながら歌うように語る芸。

(3)
「対口相声」:相声の種類は主に3種で、「単口相声」(1人による漫談)、「対口相声」(2人による漫才)、「群口相声」(3人以上のグループによる漫才)に分けられる。

(4)
馬三立(1914-2003):天津生まれ。父親で相声芸人の馬徳禄の薫陶を受け、1930年代から活躍。「馬派相声」の総帥として天津相声の地位を高め、大名人と称される。弟子も多く、息子馬志明も相声の名人。

極品相声帮 天街劇場

極品相声帮 天街劇場

舞台の様子 

舞台の様子

劇場内に飾られる書「津門笑林」。天津の名医、張紀正筆

劇場内に飾られる書「津門笑林」。天津の名医、張紀正筆

馬三立の銅像

馬三立の銅像