日本一の温泉湧出量、源泉数を誇る大分県別府市。背後には標高1374mの活火山の鶴見岳、目の前には別府湾が一面に広がっていて、身体も心も温まるホットなまちです。このまちの魅力に惹かれ、今日も国内外の観光客があちらこちらにみられます。温泉めぐりはもちろん、地獄めぐり(こちらも温泉ですが)、郷土名物のとり天やだんご汁の食めぐりを楽しまれる方も多いでしょう。たくさん遊んだ後の少しゆっくりしたい朝、お散歩コースに「イナコスの橋」まで訪れてみませんか。
別府駅から車で15分ほど北へのぼると南立石公園があります。地元の人が集まるこの公園と、その隣に位置する西別府病院の間に境川という川が流れていて、そこに架けられた全長約36mの橋が「イナコスの橋」です。いまから22年前、平成6年4月に日本で初めてサスペンアーチ式(逆さ吊り)で造られた橋です。
イナコスの橋は、別府と友好都市関係にある中国烟台市産の、淡桜色の御影石を主な材料として使っています。この石は厚さ25cm、1枚の重さは約800kgもあります。橋の上弦部は78枚の御影石が用いられ、その内部に太いピアノ線を通して川の両端に固定させています。下弦部には鋼材が用いられています。上下の弦が絶妙なバランスを保っていることによって、やわらかなアーチを描いているのが特徴です。この特殊な構造が選ばれたのは、通常の橋のように上からワイヤーで吊るす構造では、川の上流にある鶴見岳や扇山などの美しい自然景観を妨げてしまうからです。この美しい場所をそのまま残すためにイナコスの橋は誕生しました。
「イナコス」という名前は、当時公募により集められた中から、地元の小学6年生の男の子の案が採用されたものです。ギリシャ神話に出てくる川の神の名から名付けられたものだそうです。地元住民だけでなく、入院患者さんがこの橋を渡り公園へ訪れる様子もしばしばみられます。この橋の上に立つと、優しい川のせせらぎがみんなの心をすこし癒してくれます。
(出口聡子)