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アネモメトリ -風の手帖-

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#259

遊牧民族のシャガイ文化をめぐる雑談
― 中華人民共和国 内モンゴル自治区

モンゴルで遊びや占いに用いられる「シャガイ」とは、モンゴル語で動物のくるぶしの骨を意味し、東アジアの遊牧民族文化では普通羊の骨を用います。日本の文化人類学者の小長谷有紀氏によって書かれた『遊牧民の暮し』によると、シャガイは世界最古のおもちゃであり、今日でも世界最大の広がりを持つおもちゃです。モンゴル語では「ガラハ」とも呼ばれます。

シャガイ

シャガイ

ほぼ直方体で、異なった形状の4面をそれぞれ馬・ラクダ・羊・ヤギと区別して、サイコロとして使ったり、コマとして使ったり、おはじきとして使ったりすることができます(註1)。中国語ではサイコロを「骰子(シャイツ)」と言いますが、この「骰」の字の由来がシャガイの形だったそうです。中国無形文化遺産のサイトが公開した情報によると、シャガイは内モンゴル自治区の無形文化遺産に登録されているそうです(註2)。
最古に発見されたシャガイのゲームは1000年前の中国の金時代を築いた女真民族に遡ります。時代が変わって、各遊牧民族と地域文化による数多くのゲームルールが生まれました。内モンゴル地域でまだ行われているシャガイのゲームは複数ありますが、10~90歳の原住民にアンケートをした結果によると、よく行うゲームはほぼ10種類だそうです。一番よく遊ばれるゲームは、「弾き」および「投げ」と呼ばれるものです。子供たちはシャガイを巧妙に投げたり打ったりして遊びながら、体の動作の反応を鍛えることができるといわれます(註3)。ただ残念ですが、この古い文化は絶滅の危機に瀕しています。高度なテクノロジーが溢れる現代社会で、伝統的なシャガイのゲームを遊べる若者が徐々に減っていると思います。

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シャーマニズムを信仰する満民族およびモンゴル民族の中には、昔からシャガイで占いを行う民俗があり、現代化に伴ってそれは伝統的な占いの一つになりました。シャガイの目がいくつ出たかの組み合わせによって占いの結果が決まります。シャガイ占いの結果には諸説ありますが、モンゴル族の遊牧文化を紹介しているサイトによると、よく用いられる占い方では36通りの結果があるといわれます(註4)。中国の教育政策の影響か、新しい遊び方が開発されるなどのシャガイの展開は一つもない状況ですが、逆に占い文化が盛んな日本では、人気になるかもしれないと思います。

(註1)
小長谷有紀『遊牧民の暮し』国立民族博物館編、千里文化財団、2004年、p.21。

(註2)
中国非物文化遗产网•中国非物文化遗产数字博物「“线下+线上”系列活动让阿拉善“非“走出“深”活起来」、https://www.ihchina.cn/Article/Index/detail?id=25386(2024年5月11日閲覧)。

(註3)
霍瑞娟「ガラハゲームとその社会機能」『文化長旅』民族団結雑誌社、12月号、2009年、p.24。

(註4)
モンゴル旅行の専門店 たびびとのたまご「シャガイ “家畜のくるぶしの骨”」、
 http://tabitamago.jp/mongolia/shagaa.html(2024年5月11日閲覧)。

(註5)
趙月梅「ドゥルバートモンゴル族伝統ゲーム探究―黒竜江省ドゥルバートモンゴル族自治県布村をケースに」『黒竜江民族叢書』黒竜江省民族研究所、5月号、2014年、p.145。

(史 雲河)