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アネモメトリ -風の手帖-

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#210

佐渡島のラピュタ―北沢浮遊選鉱場跡―
― 新潟県佐渡市

新潟の海岸線は街灯が少なく、夜の運転中にバックミラーを覗くと真っ黒になります。今回、新潟に移住してから初めて訪れた佐渡島の海岸線も真っ暗でした。レンタカーを運転している私も助手席の友人もずっとしゃべり続けていたのは、少し怖かったのでしょう。目的地に到着すると突然、ライトアップされた廃墟が現れました。その幻想的な雰囲気に気圧された私たちは、しばらく黙り込んでいました。

北沢浮遊選鉱場跡、夜のシックナー。浮遊選鉱によって不純物を取り除いた鉱石は、シックナーと呼ばれる沈殿濃縮装置でろ過した後、香川県の直島製鉄所へ運ばれました

北沢浮遊選鉱場跡、夜のシックナー。浮遊選鉱によって不純物を取り除いた鉱石はシックナーと呼ばれる沈殿濃縮装置でろ過した後、香川県の直島製鉄所へ運ばれました

①選鉱場

昼間の北沢浮遊選鉱場跡

昼間の様子

その廃墟は、かつて佐渡鉱山から採れた鉱石の処理場として建てられた「北沢浮遊選鉱場(きたざわふゆうせんこうば)」の遺構です。遺された階段状のコンクリートに植物が生い茂るその姿から、映画『天空の城ラピュタ』の世界観を彷彿させると人気の観光スポットになっています。
浮遊選鉱とは、鉱山で採掘された岩の中から金や銀などを取り出す方法のひとつです。細かく砕いた鉱物を界面活性剤などの浮遊剤と一緒に水槽に入れてかき回し、泡とともに浮き上がった金銀粒を回収します。もともとは銅の選鉱工程で利用されていた方法ですが、金銀の回収に応用したのは佐渡鉱山が世界で初めてでした。
明治初期、鉱山の近代化をはかる政府は、佐渡鉱山に西洋人技術者を派遣しています。彼らが離島した後は、日本人技術者たちが引き継ぎました。昭和初期に建てられたこの選鉱場は、彼らが発展させた鉱山技術の結晶といえるでしょう。背景には日中戦争による金銀銅の増産運動がありました。そんな時代背景もまた、映画を思い起こさせるのかもしれません。
夜の選鉱場ではBGMが流れていて気づきませんでしたが、翌朝に訪れた時は、用水路のせせらぎや虫の声がはっきりと聞こえてきました。ヨモギの香りも漂ってきて、旅の感覚を久しぶりに味わうことができました。また、佐渡島では毎年「さどの島銀河芸術祭」が開催されています。そちらと合わせて訪れても面白そうですね。

選鉱場からほど近い佐渡金山では、江戸時代の採掘の様子が再現されています。「馴染みの女に会いてェなァ……」という人形のボヤキに、「そうだよねえ」と相槌を打ちたくなるほど過酷な労働環境を垣間見ることができます

選鉱場からほど近い佐渡金山では、江戸時代の採掘の様子が再現されています。「馴染みの女に会いてェなァ……」という人形のボヤキに、「そうだよねえ」と相槌を打ちたくなるほど過酷な労働環境を垣間見ることができます

参考
佐渡市世界遺産推進課編(2014)『佐渡金銀山―佐渡金山遺跡(相川金銀山跡)分布調査報告書』佐渡市世界遺産推進課

さどの島銀河芸術祭
https://sado-art.com/about

(長谷川千種)