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アネモメトリ -風の手帖-

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#136

洞窟とともに発展した街ファルケンブルグ
― オランダ ファルケンブルグ

オランダで最古の鉄道駅が残るファルケンブルグ。マーストリヒトからローカル電車で10~15分ほどのところにある、ベルギーやドイツにほど近い小さな街です。ここは海抜が低いことで有名なオランダにおいては珍しく丘が多く、この国の他の街とは少し違った景色を見せてくれます。
19世紀に鉄道が開通して以来、夏は避暑地、冬はスキー場として多くの観光客を受け入れ続けているこの街には、世界中でここでしか見られないものがあります。それは洞窟(1)の中で開催されるクリスマスマーケットです。
クリスマスマーケット会場として使用されている洞窟は採石のために掘られて出来たもので、採られた石は、現在遺跡となっているファルケンブルグ城を中心に、街の建設に利用されました。採石が済んだ洞窟は城と繋げられ、敵が侵入してきた際の避難や敵陣へ攻め込むための隠し通路、城への物資運搬用の地下通路としての役目も果たしました。
いくつかある洞窟のうち中心となるものは中世に採掘が始まりましたが、古いものはローマ時代から人の手が加えられています。洞窟には採掘が行われていた際に施された彫刻や絵がいまだに残されており、クリスマスマーケットにも装飾として自然なかたちで組み込まれています。またクリスマスマーケットの時期以外は見学ツアーも行われており、現在の街にとって大切な観光資源となっています。
人口1万6千人ほどの小さな街にも関わらず、古くから観光地として栄えてきたこともあり、街の規模にしては宿泊施設や飲食店が充実しているファルケンブルグですが、最近ではマスツアリズムの解消の必要性も考えられ始め、街自体にとって質の良い観光を目指す動きもあるようです。
しかしながら、この街にとって洞窟との関係は切ってもきれないもの。これまで洞窟が果たす役割が世紀を超えて変わってきたように、単なる観光資源ではない、街と洞窟の新たな関係性を作っていくフェーズに来ているのかもしれません。

(1)実際は自然にできた洞窟ではなく、人工的に掘られて作られたものですが、現地の人は「洞窟」と呼んでいるため、ここでも同じように表記します。

(佐谷由希子)

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