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アネモメトリ -風の手帖-

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#171

チンドンの音が聴こえるよ♪
― 長崎県時津町

長崎に「かわち家」というプロのチンドン屋さんがあります。代表の河内隆太郎親方について、その経歴を簡単に紹介します。
河内さんは、小学校教師を目指して大学受験のためにダンスを習い始めたところ、師のダンスに衝撃を受け虜になります。めでたく国立大教育学部に入学するも、ダンスや舞台に夢中の日々を送りました。将来への不安のなか、気を取り直して猛勉強し教員採用試験を受験しましたが、無念にも失敗。するとその2日後の朝、突然「チンドン屋」というキーワードが思い浮かびます。よし! チンドン屋になろう!
本人はいたって真剣で、周囲の反対を押し切り、タウンページで見つけた北九州の「川太郎一座」に就職。その後東京で修行したいという思いが募り、上京して老舗「菊乃家」の門を叩きました。そこで生活のために始めたもうひとつの仕事が、祝い餅つきパフォーマンスの「めでたや」との運命の出会いとなりました。
そのうち家族もでき、生活がかかった苦しくも楽しい修行時代を経て、平成12年4月、ついに故郷長崎でチンドン屋の旗揚げを実現しました。
かわち家は令和3年4月で開業21周年を迎え、今では風信帖#115でも紹介された富山の全日本チンドンコンクールで過去4度の優勝を果たし、現在2連覇中の実力者です。2020年と2021年はコロナ禍でコンクールは中止となりましたが、2021年4月10日には出場予定チームの演技がYouTube配信されました。
さて、このコロナ禍で経済活動が停滞しイベントや祝い事もほとんどない中で、チンドン屋さんはどのような活動をされているのでしょうか。河内親方に聞いてみました。

「かわち家の主な営業種目は、チンドン街頭宣伝、祝い餅つき芸、まちかど紙芝居の3つです。現在の自粛ムードの中、まずチンドン街頭宣伝としては、依頼を受けて保育園や老人施設の外に現れて慰問を兼ねた宣伝を行う『チンドンの音が聴こえるよ』という企画を始めました。これはスポンサーの社会貢献活動になります。
また祝い餅つき芸は、会場で餅をつけなくなったかわりに会社で同じように杵で餅をつき、パック詰めにして販売して廻っています。
まちかど紙芝居は、通常の宣伝活動のほかに、夏休みのラジオ体操の参加促進のため、参加した子供たちに紙芝居を見せるという活動も長く続けています。
今は厳しい時代ですが、身に付いた縦横無尽なフットワークと、どんなアイデアも仕事として成立させる能力を活かして乗り切るつもりです」

かわち家はプロとして宣伝効果の数字にこだわる。芸は口上を主体とした正攻法を後進にも伝えたい。そしてチンドンをこれからの社会に必要とされる存在にしていきたい。
親方のモットーは「進んだ道が大正解!」「思い切ってやった人には100%ラッキーがある!」です。祝い餅をいただきながら、そんな親方の心意気が明るく胸に響きました。

(山口美登志)

参考
河内隆太郎(2016)『チンドン大冒険』長崎文献社

かわち家
http://www.kawatiya.jp/

富山商工会議所/全日本チンドンコンクール
http://www.ccis-toyama.or.jp/toyama/cin/top.html

ちんどん屋日本一! ©️かわち家

ちんどん屋日本一!
©️かわち家

チンドン街頭宣伝 ©️かわち家

チンドン街頭宣伝
©️かわち家

祝い餅つき芸 ©️かわち家

祝い餅つき芸
©️かわち家