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アネモメトリ -風の手帖-

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#189

明日の切り絵
― 長崎県波佐見町

波佐見焼で有名な長崎県波佐見町の人気スポット西の原。旧ろくろ場を改装した多目的空間モンネポルトで、2021年9月、「はじまり」というアートイベントが開催されました。写真、イラスト、切り絵、ポエムなど、多様なジャンルで表現を楽しむ駆け出しのアーティスト13人が集まり、展示会とグッズ販売を行い大好評でした。

会場のモンネポルトには約5000人が来場しました

会場のモンネポルトには約5000人が来場しました

「はじまり」展の主催者 はっとりあすかさん

「はじまり」展の主催者 はっとりあすかさん

このイベントを主催したのは、切り絵作家で精神科作業療法士の「はっとりあすか」さん。はっとりさんは、中学生のころ影絵作家の藤城清治氏(1924~)のファンタジックな作品を見て感動し、自分も夢溢れる自由な世界を表現したいと切り絵を始めたそうです。
現在、メンタルケアに関する情報発信とアート活動に力を入れています。切り絵の魅力を伝えること、切り絵を通してアートの持つ力を届けること、切り絵の持つ癒しの力を伝えること、すなわち作る人の個性を最大限に表現してくれる切り絵の無限の可能性と安らぎの力を多くの人に伝えることを目指しています。藤城清治氏が97歳の今も現役であることは切り絵の力の証かもしれません。
また切り絵を通して精神疾患のある方のサポートをしていきたいという想いがあります。細かい作業の持続が必要な切り絵は、集中力や根気が必要で完成までに時間がかかりますが、無心になれるその工程は尊く魅力的でもあります。

《ふるさとの音》 2019年 濃黒切り絵展(大阪)出品作

《ふるさとの音》 2019年 「濃黒切り絵」展(大阪)出品作

はっとりさんは自身がHSS型のHSP(註1)であり生きづらさを抱える中、好きな切り絵の制作によってそれを乗り越えようとしています。「私はもともと自分に自信がない人間です。しかしアート活動・自分が作ったものが誰かに認められるという経験を通して、自分のことを好きになっていきました。私だから見える景色を大事にしたい」
そしてそのことを多くの人に伝えるために活動を始めました。「自信がない人の力になりたい。生きにくい思いをしている人が少しでも楽になれたらいいなと思います。子供たちが自分を見たときに、大人って楽しそうだなと思ってもらえるように、好きなことを仕事にしています」
想いはあってもその実践は難しいものです。実際、精神科で勤務しながら悩みの電話相談もこなし、また妊娠中や子育て中であってもアート活動を続けて、今も明日のために作品づくりと仲間づくりを進めています。
「はじまり」展は、いわゆる個展や知り合いのグループ展とは違い、ネットを使った「この指とまれ」方式で仲間を募りました。そしてこのことが新たな出会いを生みました。
切り絵はどこかの線が細くても絶対に繋がっています。表現で繋る、多様な個性を認め合う仲間作りは、生きがいを求める全世代に勧めたい素晴らしい活動です。

切り絵はどこかの線が絶対に繋がっています

切り絵はどこかの線が絶対に繋がっています

(註1)
HSPHighly Sensitive Person)とは、外部からの刺激に対して非常に敏感で繊細な人のこと。HSSHSPとは、刺激探求型(High Sensation Seeking)で非常に敏感なのに刺激を求めてしまう人のこと。社交性や行動力はあるのに傷つきやすいため、理解されにくく生きづらさをかかえているといわれている。

参考
はじまり | monné porte
http://monne-porte.com/archives/1390

子どもたちの希望になりたい!!切り絵作家はっとりあすかの支援者様募集 |CAMPFIRE Community
https://community.camp-fire.jp/projects/view/369627

藤城清治美術館
fujishiro-seiji-museum.jp 

(山口美登志)