アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

TOP >>  特集
このページをシェア Twitter facebook
#97
2021.06

未来をまなざすデザイン

2 STUDIO SHIROTANIから広がること 長崎・雲仙市小浜
6)詩的であること、深いところから組み立てること
カレーライフ 尾崎翔さん2

刈水庵で働くきっかけもそうだが、尾崎さんはユニークな経歴を持つ。学生時代は理系の研究をし、大学院まで進んだ。しかし卒業後、選んだ仕事は工芸や生活雑貨の製造小売業だった。

———僕はいろんなジャンルを渡り歩いてきた人間です。新卒で入った製造小売業で地域の伝統産業とか見ているうちに、地域側、つくり手側にもっと興味を持って移住を考えるようになりました。
では、自分が生業として何をしたいかって思った時に、学生時代から料理が好きで、飲食のバイトも長かったこともあって、食をやりたいなと。大学の延長で研究的なこともやって、会社員もやって、今は自営業。1つのジャンルに携わった期間としては全部短いんですけど、横断的な経緯なので、いろんな視点が持てたのがよかったかなと思ってますね。

その時々で興味を持ったことをきわめながら、自分の人生を切りひらいてきた尾崎さん。その生きかたにも城谷さんは少なからず影響を及ぼしている。

———城谷さんがやってらっしゃることって、いい意味で時代に左右されてない。ずっと生涯続くことだと思うので、その軸を持てた。時代に合わせた動きもするなかで、その軸がない状態だと、コロナとかで一気に流されちゃうようなふわっとした状況だったと思うんですけど。城谷さんの哲学が根底にあるので、何かあっても大丈夫かなっていう。ちゃんと土に根ざした、根っこのしっかりした考えに基づいた動きができるようになったのかなと思いますね。

じっさいに印象に残っている城谷さんの言葉は何だろうか。

———一番印象に残っている言葉は「詩的なデザイン」でしょうか。経済的な、機能的に必要なだけじゃなくて、背景に詩的な遊び心があるというか。必ずしも必要ではないエッセンスが内包されているようなデザインがいいよね、と。前後の文脈を忘れちゃったんですけど、詩的な感覚を常に持っておられると聞いて、すごく腑に落ちたというか。ものを売るだけとか、かっこいいだけのデザインじゃない、深みがすごくあるなって。それもまた飲食の仕事とか、写真にも通ずることかな、と思って。好きな言葉ですね。

何をしていても、何をつくっていても「詩的であること」は可能だ。そうして届けられるものには想像の余地が生まれる。尾崎さんは城谷さんの言葉を大切にして、進んでいこうとしている。

———専門的に修行して技術を身につけたのではなくて、やりながら深めていく途中なので。カレーも深くて、焙煎も深くて。何の店か、何をやるのか決めきっていないからこそ楽しさに、自分の興味に素直に従って店づくりができているかな、と。
それは結果的に自分にしかできないお店とか、味になるかなと思います。城谷さんも本当にいろんな素養があられて、本とか映画とか、文化的な背景がすごく深いので、そういう背景があるからできあがってくるデザインに詩的な要素を含むのかなって。僕もカレーの勉強をするとき、カレー屋さん以外のいろんなジャンルの料理家さんからお話聞いて活かせそうなことを取り入れるというスタイルだったんですけど、そういうところも城谷さんの影響だったかも。
カレーをやっていると、最終的に「カレーとは」ということになっていくんです。カレーの定義は、これはカレーなのか? とか。深いところから組み立てていくというのも勉強になりましたね。

20210112_IMG_3558_NK

20210112_IMG_3546_NK

店は妻の愛(めぐみ)さんとともに切り盛りしている。「自分たちが楽しみながら、振り返ったらより住みやすく、楽しいまちになっているといいですね」