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アネモメトリ -風の手帖-

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#94
2021.03

文化を継ぎ、培うということ

2 身の丈の関係性 手のひらのものづくり 京都・祇園町
3)時間をかける 数を増やさない

Zplusらしいものづくりは、歴史を今につなげて、新たなストーリーを紡いでいくことでもある。たとえば、マッチ箱。木製ケースに型染めのラベルという仕様だ。それぞれ、木工作家の佃眞吾さん、型染め作家の関美穂子さんが制作された。お2人とも京都在住の作家である。

———黒田辰秋さんの作品にマッチ箱のカバーがあります。ZENBIの1階、階段の下に展示されていますけど、マッチ箱という量産のプロダクトを尊重しながら、背広を着せるかのように制作されたカバーです。それを佃さんに、神代欅でつくっていただいたんです。そして、佃さんに紹介していただいた関さんは、芹沢銈介さんという民藝の型染作家に影響を受けて、型染めを始められた。長年マッチ箱をつくってこられた関さんが、この美術館のために刷りおろして制作してくださったんです。佃さんのマッチケースが小さな額縁のような仕上がりで、レアな共作ができました。

民藝の作家、黒田辰秋と芹沢銈介のものづくりが、彼らをリスペクトする現代の作家によって、今の時代に合ったかたちで継承される。その過程では、つなぎ手である永松さんも含めて、アイデアを出し合い、楽しみながら、それぞれができるかぎりのことをする。制作する時間のなかで、いろいろなことはあっても、共同してつくる喜びは格別ではないだろうか。
ちなみに、マッチ箱は今はほとんど使われることのないアイテムだ。しかし、その小さな世界のデザインにおいては、これまであらゆることが試みられてきた。ユーモアたっぷりに、あるいは実験的に。連綿と続いてきたマッチ箱のデザインを、今の時代にあえて手がけることは、ささやかだけれど意義深い。

———京都って、つなぐからできるものがあるな、と思いました。みなさん、楽しそうに自分のやっていることを話してくださったりして、本当に面白いんです。そうしてできあがったものを、どういうストーリーで伝えるかということがわたしの仕事だと思っていて。プロデューサーとかディレクターというより、そんな感じです。

商品ができあがったとしても、永松さんはすぐに店に出すわけではない。どうしたらものの魅力を一番良く伝えられるか。まわりに意見をもらいつつ、ああでもない、こうでもない、とストーリーづくりに頭を悩ませる。永松さんにとって、ひとつ、ひとつが愛着のある宝物なのだ。

———作家のところに行くと、みなさん本当に大変なことをされているんです。それを理解した上で新しいものをつくろうと提案するので、けっこう勝手なことを言っています。それをよし、としてくださる方とものづくりをしようと思っているので、数はあまり増やせないんです。

制作の現場を見せてもらって、話を聞く。そんなことをくり返し、時間をかけて信頼関係を育んでいく。それがなければ実現できない、真摯なものづくりなのである。
ドアを開けて向かって左、カウンターのある側の壁面は、ギャラリースペースになっている。そこでは「黒谷和紙の名刺サイズ」をテーマに、ゆかりのある作家や職人にそのなかで世界をつくってもらって、見せていきたいと思っている。思いついたアイデアをもとにやりとりするなかで、新たな境地が開かれることもあるに違いない。
永松さんとつくり手のあいだには、効率などでは測れない、仕事の肌理のようなものがある。
決して楽ではないが、充実したものづくりの道行。
そんな、小さなひとつ、ひとつが数百年のあいだ積み重なって、このまちでは文化がつくりあげられてきた。
京都の豊かさは一朝一夕のものではない。

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型紙染めのマッチ箱と神代欅の木製ケース。粋を凝らしてつくったものを、さりげなく置く遊び心 / 京唐紙「かみ添」の嘉戸浩さんが、黒田辰秋が制作した宝結び紋を刷ったカード。版木を起こして、手摺りで文様を写す / 一澤信三郎帆布製のZENBIオリジナル「おさんぽバッグ」。一澤信三郎帆布+ZENBI +Zplusのトリプルネーム。「緙室 sen」千原けいこさんに革のハンドルとインバッグを依頼した。ちなみに、鍵善ののれんも一澤信三郎帆布のもの / 「黒谷和紙の名刺サイズ」を使って展示する企画、始まりは陶芸家・辻村史朗さんの作品で