2月号から3回にわたって、京都の菓子店「鍵善良房」(通称「鍵善」)の試みを取り上げたい。
鍵善は江戸中期に創業し、祇園に店をかまえてから300年近くになる。現在の店主・今西善也さんで15代目の老舗である。
京都の老舗というと、何かにつけて「伝統」や「継承」などの言葉がつきまとう。15代、16代と続く店の当主たちは、何を、どう残すのか、あるいは何を新しく始めるのか、常に考え、選択している。そのひとつ、ひとつの積み重ねが京都の文化をかたちづくっていくのだから、それは想像を超える重責でもある。その時々の店主の決断が、文化に厚みをもたらしたり、下手するとやせ細らせることもありうる。
2021年1月8日、鍵善は祇園に美術館をひらいた。その名も「ZENBI -鍵善良房- KAGIZEN ART MUSEUM」。スポンサーや協賛などをつけない、インディペンデントな施設である。菓子店がなぜ、いま美術館を開設するに至ったのか。祇園というまちに、小さな美術館は何をもたらすのか。人とまちのかかわりという観点から探っていきたい。