アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#89
2020.10

これからの経済と流通のかたち 市やマルシェ編

3 山ト波が手がける、さまざまな市
4)地元のひとと、関係性をじっくり築く
KIRIマルシェ1

ここ数年、東京では「マルシェ」が数多く開催されている。2020年3月以降はコロナ禍で中止や延期になったケースも多いが、オフィス街や都心の地元商店街と連携するなど、各地に賑わいが生みだされてきた。
ちなみに、なぜフランス語の「マルシェ」かというと、ひとつには2009年、農林水産省が助成事業として「マルシェ・ジャポン・プロジェクト」を立ち上げたこともあるだろう。マルシェと名付けた場を開けば、一定の集客ができて収益も上がる。しかも、生産者と消費者を結びつけられ、意義もある。そんなふうに捉えられ手軽に開けるマルシェは「流行って」いった。
そうなると、玉石混交の状況が生まれてくる。出店者が人気や売り上げで判断されて、「売れる」ことを基準に商品のラインナップを考えざるをえなくなったり、また売れない場合には、それを解決する策が講じられることなく、そのまま声がかからなくなったりもする。あるいは、毎週ルーティンのように開催されるマルシェもあるが、誰も目を留めず、通り道の風景になっているような場合もあるという。

2017年、東京に戻った鷹取さんは、さまざまな市を見てまわっていた。もとから好きだから、趣味と実益を兼ねるところもある。
そもそも、prinzで市を始めるにあたって、お手本となる市はあったのだろうか。

———(数多くのイベントを主催する東京の)「手紙社」さんのなかでも、「もみじ市」だけはわたしにとって特別で。手紙社さんが始まったきっかけでもあると思うんですけど、始めは数組の出店者さんが参加する小さな市だったそうで、参加してくれる1人1人に直接取材して、作家さんの想いや言葉をていねいに紹介する、ということをされていて。それを見ていて、関係性が本当い身近で、素晴らしいなと思っていて。そのスタンスは今も変わらずにやっておられて、自分のマルシェをつくる上でもそういう考え方はすごく大事にしていることなので、学ぶべきところです。
誰かを招いてマルシェをするのって、本来は関係性が大事だと思うんです。だから、それが少しでもいい感じになるように、規約とかではないけど、ちょっとしたルールをつくったりはするかな。細かいことですけど、出店1時間前には来てくださいとか。ある程度のルールを守ってもらうことは大事にしています。その場その場で違ったりするから、難しいんですけどね。

鷹取さんの市のつくりかたは、ひとと関係性をつくり、それを継続しながらどう育てていくか、というものだ。相手によるところも大きいから、ルールやシステムをきっちり決めきることはせず、柔軟にやってきた。
ここ数年の活動のなかで興味深いのは、地域の住民と関係性を育む京都・亀岡のマルシェである。2018年に始まった「かめおか霧の芸術祭」の一環として、「農」をキーワードに、これまで2回ほど開催されてきた。
かめおか霧の芸術祭は「野良の芸術」をうたい、亀岡を象徴する霧と大地の有機的な循環のなかで、さまざまな芸術をまちに展開していく。そこでは、アーティストが作品を展示するのではなく、生活のなかでなんらかの技術をもつ地元のひとたちを芸術家ととらえ、主役にする。一風変わったユニークな芸術祭において、地元の若手農家と試みる「KIRIマルシェ」は、ひとつの柱となっている。会場は主に芸術祭の拠点となる「KIRI CAFE」とその周辺だ。

———最終的には、どんな小さなかたちでも、地域のひとが自分たちでマルシェみたいなものをつくっていけることを目指しているんです。そのやり方とかお客さんの雰囲気をまずは知ってもらうために、最初はわたしとKIRI CAFEの店長や芸術祭のメンバーが主催して、農家さんや亀岡のお店、作家さんたちに参加してもらって、これまで2回開催してきました。それを経て、KIRI CAFEのスタッフと農家さんの関係もどんどん始まっていて、今はみんなでつくるほうに少しずつ進んでいるなと感じます。そこにはマルシェが終わった後に、それぞれのスタッフが亀岡のみんなとの関係性を深めていったがんばりや背景があるからだと思います。それが一番大変で、大事なことだと思う。

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KIRIマルシェ2019秋のようす。会場のKIRI CAFEは京都芸術大学(旧名称 京都造形芸術大学)の学生が中心となって古民家を改装したスペース。マルシェにも学生や卒業生たちが参加して、農家さんたちとのコミュニケーションを図っている

3回目となるKIRIマルシェは、2020年10月31日と11月1日の2日間。これまでのように、出店者がKIRI CAFE周辺に並ぶのとは異なるスタイルを考えている。

———トラックを何台か走らせて、みなさんからお預かりした商品を載せ、時間別でいろんな停留所をまわって <会いにくる> 新しいかたちのマルシェができればと思っています。同時にライブをする車も停めて、どこかからサーカス団がやってきたみたいな、高揚感や楽しさも短い時間ながら感じていただけたらうれしいです。
ちなみにKIRI CAFEがある千歳町には数え歌みたいなものがあって、これまでKIRIマルシェでライブしてくれていたひとたちに音源にしてもらっているんです。その歌を走りながら拡声器とかで流せたらと計画しています。

移動する市と、伝承されてきた歌のかけあわせ。
この試みは、とても興味深い。亀岡の土地で採れたり、つくられたものを並べる市が、亀の歌とともにやってくる。亀岡の地の、あるいは亀岡のひとの心の何かが呼び覚まされ、じわじわと変化がもたらされるのかもしれない。それは、シンプルでたくましい「野良の循環」につながるようにも思える。
ちなみに、若手農家がつくる亀岡のオーガニック野菜は、亀岡市内で流通することがほとんどなかった。市民にオーガニック野菜があることを知ってもらい、実際に食べてもらう機会を提供するだけでも、今回の芸術祭にふさわしい試みといえる。

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KIRIマルシェでは土からつくった陶器もフィーチャー。大きな縁側で多くのひとが音楽に聴き入った

KIRIマルシェでは農とかかわるものとして陶器もフィーチャー。陶器は土から生まれるものであり、食べ物を受けとめるものでもある / 大きな縁側で多くのひとが音楽に聴き入った