6)時間をかけ、熱意をもって「その先」をつくる
鷹取さんがこれまで手がけた市について、主なところを伺ってきた。
8月号で取り上げた「環の市」、9月号の「万年青のオモテ市」もそうだったが、市とは、やはり「ひと」ありきではないだろうか。ひととひとが信頼と敬意で結ばれ、愛と熱意をもって場を運営していくこと。
たとえ、企業や行政がかかわる大規模な市であったとしても、現場に立つ主催者にどれだけ熱意があるかで、そのクオリティはずいぶん変わってくる。
あらゆるものがネットで買える時代に、わたしたちは直接手をふれず、ひとと会わずにほしいものを得ることができる。コロナ禍で、その状況はさらに加速している。
ものを見てさわって、匂って確かめたり、誰かと話してあれこれ品定めをしたり、ときには何かを交換できるような、市のような場が以前のように開かれるのは、まだ先のことだろう。でも、ひとには、そのような場も必要だ。それはまた、雑多ななかで、わたしたちのさまざまな感覚を養い、取り戻せる場でもある。
そして、何事も速く進めることが求められるなかでも、時間と労力をかけてゆっくり進まなければ、得られないものごともあるのだ。鷹取さんが市に出店してもらうために、一軒一軒まわって歩いたように、亀岡のKIRIマルシェが時間をかけて、市民との距離をじっくり縮めていくように。
最後に、左京ワンダーランドのホームページに掲載されている文章を紹介したい。現在、左京ワンダーランドを運営されている2人の言葉だ。春のイベントは中止や延期となり、秋の開催に向け準備を進めていた糺の森ワンダーマーケットも、会場となる下鴨神社との協議の末に中止となった。それでも、別会場での開催を目指して、新たに動き始めている。
今、様々なことが、オンライン化していく中で、
結局のところ、人と人との関係で成り立っていること、
そしてそれがとても大切な事で、必要な事なのだと、
再認識させられます。きっと皆さんもそうかと思います。
山ト波
https://yamatonami.tumblr.com/
KIRIマルシェ
https://kirimarche.tumblr.com/
鷹取愛(たかとり・あい)
1982年東京生まれ。桑沢デザイン研究所卒。2010年に京都に移住したことをきっかけに、市やマルシェの企画運営を手がけるようになり、2016年より音楽イベントや展示などを企画する「山ト波」を始める。企画したイベントに、「The lantern man’s song“lanternamuzica”in TOKYO」(VACANT、2018)、「Live青葉市子×LivePaint西淑」(UrBANGUILD、2018)、「玉フェス」(一色会館、2018)など多数。2015から2017年「本と紙のお店・homehome」店主。
取材・文・編集:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
編集と執筆。出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。2012年4月から2020年3月まで京都造形芸術大学専任教員。書籍や雑誌の編集・執筆を中心に、それらに関連した展示やイベント、文章表現や編集のワークショップ主宰など。著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、編著に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。
編集:浪花朱音(なにわ・あかね)
1992年鳥取県生まれ。京都の編集プロダクションにて書籍や雑誌、フリーペーパーなどさまざまな媒体の編集・執筆に携わる。退職後は書店で働く傍らフリーランスの編集者・ライターとして独立。約3年のポーランド滞在を経て、2019年帰国。現在はカルチャー系メディアでの執筆を中心に活動中。