7)差異より共通性を ゆっくり歩む
松井さんには、幼い頃に思い描いた理想の住処がある。広い田んぼがあって、菜の花が咲き小川が流れ、小高い丘が連なっている。その丘の中腹に建つ、煙の立ち上る家だ。まわりには誰もいなくて、鳥が鳴いてるようなのどかな場所。
それはまた、松井さんが考えるネオ民藝の村のすがたにも近い。
——片田舎の川沿いに20世帯ぐらいが住んでいて。プロのつくり手も素人も、外国人も一緒になってやってるチロリン村や*ひょうたん島みたいなところ。水力と山の資源を使いながら生きるんです。
松井さんは子どもの頃のビジョンや若い時分の憧れをずっと持ちつづけているのだった。住処に関してもそうだし、民藝にしても、高校のときに好きだった棟方志功に始まって、長いあいだ関心を持ちつづけてきた。
それらが現実になろうとしていることに、何ら不思議はない。松井さんは広汎な興味をその時々で文脈づけ、かたちづくってきた。今はたぶん、それらがぎゅっと集まり、一本の太い幹をつくりはじめた時期なのだろう。
——僕たちが向き合ってる土という材料は、1億年ぐらい地球のなかで寝かされたものです。そんなふうに地球単位でものを考えていったら、今までにないアートがつくれたり、見落としたりしていたアートにも気づくはず。そういう荒唐無稽なことを考えていくひとたちがいれば、小さな差異はどうでもよくなって、どこに住んでいてもいいことになっていくはずですよね。
差異にこだわるよりも共通性を。
ものづくりを主体とした日本の生活文化は今、大きな転換期を迎えている。そこで必要とされているのは、ジャンルやカテゴリーを越えて、目指す先が共通するひとたちとともに、消費システムから外れたところで、ゆっくり歩んでいくことなのではないだろうか。
松井さんがネオ民藝運動をどこで始めるのかは、まだわからない。こども芸術の村プロジェクトがかたちになるのかもしれないし、出会った誰かと、どこかに赴くのかもしれない。でも肝心なのは、それを持続することと、各地につないでいくことだろう。
松井さんは昨年還暦を迎えたが、「これからの10年はもっと面白くなるよ」ときっぱり言う。ネオ民藝運動は松井さんのまだ見ぬ大切な通過点だ。歩みつづけるその先は、きっと美しく、素敵なところに違いない。
* NHK人形劇『チロリン村とくるみの木』のこと。1956〜1964年の放映。