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アネモメトリ -風の手帖-

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#32
2015.08

状況をデザインし、好循環を生みだす

前編 つくり手と一緒に考え、つくり、発信する
3)日本のものづくりを世界に発信する カリモク家具との試み

オフェクトをはじめ、北欧の企業と接点を持つうちに、柳原さんは日本と北欧の違いは何だろう、と考える機会が増えていった。北欧では当たりまえの、納得するまで時間をかけるものづくりと効果的な発信が、日本ではどうしてできないのか。
大きな違いとしては、クリエイティブディレクターの不在と、そこからのビジュアル発信がないことだと柳原さんは思っている。

——北欧のメーカーには、クリエイティブディレクター、そしてアートディレクターがいるんですね。会社の考え方を理解するデザイナーを起用して、ビジュアルをつくっていくんです。北欧の会社から送られてくるカタログを見ていたら、どれもしっかりしていて、企業理念も商品のことも、視覚的にわかりやすいんですよ。日本の企業には「ビジュアルで見せる」ことが決定的に足りないと思いますね。

どんなに優れたものをつくっても、それだけでは伝わらない。その背後にあるものづくりの考え方やプロセスなどもトータルで発信してこそ、ものは消費者に理解され、受け入れられ、売れていく。
柳原さんはこの仕組みを日本の企業でもつくろうと試みた。代表的な取り組みとしては、木製家具のメーカー「カリモク家具」の新しいブランド「KARIMOKU NEW STANDARD」がある。
カリモク家具は1940年、江戸時代から続く材木屋を引き継ぐかたちで、愛知県刈谷市に木工所を設立。60年代初頭から、国内向けにオリジナル家具をつくってきた。
北海道や秋田など国内の木材を中心に家具を製作してきたが、2009年、海外進出などを見据えた新たな展開を考えるさいに、柳原さんとともに進めていったのだった。

——カリモクがやろうとしていたのは、日本の広葉樹の間伐材を使って、製品をつくりたいということでした。それを聞いて、家具のデザインだけに関わるのではなく、カリモクがやろうとしていることを一緒にやらせてもらいたい、と提案しました。その延長として家具もつくりましょう、と。そこから始まって、ブランドづくりや商品開発を任せてくれるようになったんです。

オフェクトなど、北欧の企業とやりとりするなかで培われた、単にもののデザインにとどまらない、デザイナーとメーカーがいっしょにものづくりをしていくことを日本でも実現しようと思ったのだった。
それともうひとつ、KARIMOKU NEW STANDARDは最初から、日本/海外という境界をなくして展開を考えていた。柳原さんはそこで、日本ではこれまでなかったようなやりかたを提案していったのである。

——「これまでにない国産メーカー」を目指して、カリモク家具の仕事に取り組みました。作り手、伝え手から使い手へちゃんとまわるものを想像してつくろうとしたんです。それから、日本のものづくりの外に向けた発信にあんまりあか抜けた感じがなかったので、それを変えていきたいとも思いました。
具体的には、ブランドのアイデンティティをしっかり定めつつ、その見せ方を考えていきましたね。日本で評価されてから海外進出というのではなく、最初から世界で展開することを考えました。
そのコンセプトにふさわしいと思ったデザイナーに声をかけ、ものづくりに取り組みました。(オランダ人デュオの)ショルテン&バーイングス、(スイス人、ベルギー人、フランス人のチーム)ビッグゲーム、(ベルギー人の)シルヴァン・ウィレンツなどですね。彼らと納得のいくまで話をしながら、ものづくりを進めていったんです。

まず日本国内で展開してから世界へ、ではなく、最初から世界で展開する。
この発想は、最初からヨーロッパ(北欧)で仕事をしてきた柳原さんだからこそ、自然に出てきたのではないだろうか。こうして、柳原さんいわく「日本のものづくりにはないスタイル」で、プロジェクトは進行していった。
KARIMOKU NEW STANDARDは商品もさることながら、その発表の形態などでも大きな話題を呼んだ。発表した2009年に国内のデザインフェア「100% Design Tokyo」ではグランドアワードとエル・デコアワード、日経デザインアワードの3つを受賞し、さらには2010年のミラノサローネではインスタレーション的な展示をして、注目を集めたのである。世界のデザイン関係者たちにその名を知られ、国外での販売展開も広がっていった。

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(上から)柳原さんのアトリエにある「KARIMOKU NEW STANDARD」の製品。ショルテン&バーイングスのテーブル「カラーウッド」と柳原さんのソファ「ハーフウェイ」

(上から)柳原さんのアトリエにある「KARIMOKU NEW STANDARD」の製品。ショルテン&バーイングスのテーブル「カラーウッド」と柳原さんのソファ「ハーフウェイ」

——日本のブランドが国境を越えてもできる、と証明できたんじゃないかと。ブランドのコンセプトを伝えるコピー、それにデザインのアイデンティティがあれば、日本のものづくりの技術は世界的にも非常に高い。カリモクも非常に高度な木工の技術を持っている。だからこそ、ミラノサローネはリサーチして、何かをもらいにいく場じゃなくて、自分たちのつくったものを展示し、見てもらう場であり、世界中のひとたちと共有する場にしたかったんです。

日本のメーカーの多くは、ミラノサローネに出向くといっても、自分たちが出展して見てもらうより、トレンドを捉え、ヒントを得る場として活用していたりする。そうではなくて、世界的に展開するチャンスと捉え、アピールすることを試み、成功したのであった。
こう書いていると、柳原さんがカリスマ的な存在のように感じられるかもしれないが、実際は物腰やわらかで、「受け身」の姿勢のひとだと思う。

——デザイナーは専門職と組んで、ものをつくります。いろんなひとと一緒にやりますけど、逆にいうと、デザイナーひとりが考えているだけだと単なる妄想なんですね。作り手や経営者とやりとりすることで、初めて何かが生まれる。だから僕の仕事は、決めつけすぎると狭めるし、うやむやだとわからなくなる。そのかげんを探りながら、相手にいろいろ想像してもらえるようにしていきたいと思っているんです。

自己表現としてものをつくるのでは全くない。相手の求めていることを徹底的に知り、それをふまえた提案をして、かたちづくるのが柳原さんの仕事なのだ。