神奈川県、真鶴町。海に面してすり鉢状に集落が広がる、半島にあるまちだ。
人口はおよそ7,200人。東京まで直通電車で1時間半という立地ながら、2017年には神奈川県で唯一の過疎地域に指定されている。真鶴駅から半島の端までは2時間ほど。駅周辺から港までなら、15分も歩けば行けるような、小さなまちである。
“真鶴”という地名は、地図上で半島を見たとき、まるで鶴が翼をひろげているように見えることから名付けられたそうだ。海がそばにある一方で、植物の緑にもあふれている。自由に飛んだ種たちが、道端や、石垣の隙間に居場所を見つけては、そこに根をはり、花を咲かせるのだ。木々には、オレンジやレモン、湘南ゴールドなど柑橘類がたわわに実る。
いわゆる観光名所は特にないけれど、坂の上から見おろす景色はどこか懐かしく、美しい。そのまちに移住してきたのが川口瞬さん、來住(きし)友美さんのふたりだ。まちとひとの魅力にふれながら、川口さんが出版業、來住さんが宿泊業を営む「真鶴出版」として真鶴を発信し、外から来るひとたちを迎え入れている。その数は、2019年末の時点で550人。さらに移住された方々は16世帯40人にものぼる。
見知らぬまちに移り住み、「出版と宿」を営みながら生活する。
ありそうでない真鶴出版のありかたは、これからの時代をどう生きるかのヒントに満ちている。今月から3回にわたって、「真鶴出版」のふたりと移住者たち、そして地元のひとたちのまなざしを借りて、これからの暮らし方、生き方を探っていきたい。