7)地元と発展的に関わる(3) 大野製炭工場

大野製炭工場の大野長一郎さん
珠洲市の山間で大野製炭工場を営む、大野長一郎さんは県内で唯一、炭焼きを専業とする職人だ。ゆきさんと同じく、里山マイスターの修了生である。家業を継いだのを機に、茶道を支える茶の湯炭づくりに力を入れるなど、新たな試みに取り組むようになった。茶の湯炭は、お湯が適温で沸く火力と、火のつきの良さが求められ、クヌギが用いられる。能登半島では手に入りにくいため、大野さんは耕作放棄地を活用し、クヌギの植林から取り組んでいる。一年に必要なクヌギは1000本。植林を体験交流事業として、ボランティアを募って毎年植えつづけ、2012年にようやく8年目を迎え、最初の伐採となった。森づくりの長い歳月の末に、炭はできあがるのだ。
——赤く火が点ったようすは、なんとも美しくて。茶人だけでなく、ふつうのひとがリビングでも炭火を愛でる。そんな新たな価値を根づかせられたらと、職人さんたちと考えました。(ゆきさん)
そうして、試作を重ねているのが、能登原産の珪藻土でつくる、小さな火鉢だ。炭は大野さん、珪藻土の火鉢は七輪で有名な珠洲市の鍵主工業と能登燃焼機器との協働制作。本来、炭は何本か使って火が起きるものだが、菊炭1本で点した火が楽しめるように、七輪職人によって空気の通り道を考えながら形づくられた。火鉢という小さなプロダクトに、菊炭、珪藻土七輪、デザインの知恵が結集し、奥能登のものづくりの技術が凝縮されている。2012年、いしかわ里山創成ファンドを活用して参加した東京のギフトショーで試作品を展示したところ、大きな注目を集めた。大野さんはこう話す。
——「火のある暮らしを取り戻す」というのが、僕の目指しているところです。現代の住空間では火が使われなくなってきているけれど、炭、すなわち火は、わたしたちの生活の原点です。安全性や利便性が追い求められていますが、ひとはちゃんと火をコントロールし、知恵や工夫、文化を生み出してきた。今一度、日常のなかに火を取り戻す、きっかけがつくれたらと思います。
炭の火を愛でることは、火から遠のいている現代人への提案だ。ギフトショーでは東京のセレクトショップのバイヤーたちからも評判だったという。
新しい価値を見出し、今のライフスタイルと結びつける。視点を変ることで、その先に新しいフィールドが広がる。萩野さんは自分たち自身も楽しみながら、さまざまなかたちで橋渡しをしている。

京都にて、Hibanaと林業女子会の企画でおこなわれた炭火カフェという場で、大野さんの菊炭と火鉢を使った火のある暮らしを提案。その後、火鉢の形状など試作を重ねている(2013年7月20日京都四条のNPO法人四条京町屋さんにて(写真提供:萩野アトリエ)