6)地元と発展的に関わる(2) 仁行和紙
移住するきっかけにもなった、仁行和紙とも、ものづくりを通して、いい関係が続いている。澄んだ水が流れるのどかな山間の集落で、紙漉きをするのは、遠見京美さんと、息子の和之さん。雪解け水が流れ出す川べりの小さな橋を渡って、工房へ。昔話さながらのうつくしい風景に、萩野さん夫妻がはじめて奥能登を訪れたとき、心を動かされたという話が思い出される。
戦後、もののないなか、義父の周作さんが身近にあるものでなにかつくれたらと、紙漉きを始めた。地元でさかんだった林業で大量に捨てられる、杉皮を活用しようと、楮(こうぞ)に代えて杉皮で漉いた和紙は、仁行和紙ならではだ。固くて扱いにくい杉皮を細かく砕き、薪釜を使い、一日がかりで煮込む。柔らかくなったところで、たたき、潰して繊維状にし、一枚ずつ手漉きする。時間と手間をかけて周作さんが試行錯誤の末につくり出した。「楮もひとところに育っているわけでなく、山間に点在しているので、自転車で駆け回って集めていました。義父は楽しむというより、必死だったと思いますね」と話す、京美さん。
漉きあがった杉皮和紙は、木の幹の色が現れた、茶色。独特の色と味わい、手触りをもつ、この杉皮和紙を親子ふたりで継承する。やや厚めに漉いた杉皮和紙は丈夫で、ランチョンマットにも適している。京美さんがつくり始めた「野集紙」は、野山で摘んだ草花が漉きこまれ、里山の彩りにあふれた可憐な和紙だ。和之さんは照明器具など、今のライフスタイルにあったものづくりにも取り組む。
美しいものが生まれる場所は、美しい。使い込まれた工房は、清潔に保たれ、清々しい。ほぼすべての工程が、今も変わらぬ手仕事だ。自ずと、大事にしたい、大切に伝えたいという思いになる。
萩野さんは、建築設計で仁行和紙の手漉き和紙を、なくてはならない場面で取り入れる。内装などを手がけた珠洲の「うどん のんち」の、小上がりの座敷は、仕切りのないオープンな空間だが、仁行和紙の壁紙によって雰囲気がつくられる。大崎漆器店の塗師蔵の修復時には、ほんのりと光を通す和紙の特性や丈夫さを活かし、塗師の作業場を確保するのに役立てられた。ゆきさんは、夏に大量に採れたトマトなどで和紙をつくり、新たな商品などに結びつけていく。余さずものを使いつくす、杉皮和紙に通じる取り組みだ。
ただ、ものを発注し、生産するのではない。気持ちのリレーがそこにはある。