7)地元と発展的に関わる(3) 大野製炭工場
——赤く火が点ったようすは、なんとも美しくて。茶人だけでなく、ふつうのひとがリビングでも炭火を愛でる。そんな新たな価値を根づかせられたらと、職人さんたちと考えました。(ゆきさん)
そうして、試作を重ねているのが、能登原産の珪藻土でつくる、小さな火鉢だ。炭は大野さん、珪藻土の火鉢は七輪で有名な珠洲市の鍵主工業と能登燃焼機器との協働制作。本来、炭は何本か使って火が起きるものだが、菊炭1本で点した火が楽しめるように、七輪職人によって空気の通り道を考えながら形づくられた。火鉢という小さなプロダクトに、菊炭、珪藻土七輪、デザインの知恵が結集し、奥能登のものづくりの技術が凝縮されている。2012年、いしかわ里山創成ファンドを活用して参加した東京のギフトショーで試作品を展示したところ、大きな注目を集めた。大野さんはこう話す。
——「火のある暮らしを取り戻す」というのが、僕の目指しているところです。現代の住空間では火が使われなくなってきているけれど、炭、すなわち火は、わたしたちの生活の原点です。安全性や利便性が追い求められていますが、ひとはちゃんと火をコントロールし、知恵や工夫、文化を生み出してきた。今一度、日常のなかに火を取り戻す、きっかけがつくれたらと思います。
炭の火を愛でることは、火から遠のいている現代人への提案だ。ギフトショーでは東京のセレクトショップのバイヤーたちからも評判だったという。
新しい価値を見出し、今のライフスタイルと結びつける。視点を変ることで、その先に新しいフィールドが広がる。萩野さんは自分たち自身も楽しみながら、さまざまなかたちで橋渡しをしている。