アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#83
2020.04

自分でつくる公共 グランドレベル=1階の試み

3 点から面へ、回遊できるまちのつくられかた 東京・森下、浜町
2)自分が面白いから、地域も面白くなる
レコードコンビニYSHOP上総屋・進藤康隆さん2

2015年には、新たな展開も始まった。偶然通りかかったスタディスト・岸野雄一さんがこの店をとても面白がってくれ、進藤さんと話をするなかで「コンビニDJ」がスタートした。
店内で岸野さんや、時にはピチカート・ファイヴの小西康陽さんなど、著名人が回すときもあったが、あくまでも目的は、集まったひとたちがここで買った酒やつまみを片手に、わいわい楽しむためのもの。場所は非公開で、地域のひとに来てもらえたら、と始めたが、あっというまに多くのひとに知られる人気のイベントになった。と同時に、まったく情報がなくても、音楽を知らなくても等しく楽しめる、開かれた場となっている。

———前は新入社員の研修みたいなので来て、初めて東京に来てコンビニに入ったのがうちの店だったって()。地方の田舎から来たらしく、カルチャーショックだったみたいですよ。買い物して、いったんホテルに帰ったみたいなんですけど、DJが楽しそうだったから、ってまた来てくれたんですよ。「明日早いんですけど、すごく楽しそうだったんで!」って。そういうときはイベントやっていてよかったなって思いますよね。

ある日のコンビニDJ(写真提供:レコードコンビニ)

ある日のコンビニDJ。回しているのが岸野雄一さん(写真提供:レコードコンビニ)

コンビニのラインナップに好きなレコードなどを加える。そこから始まって、音楽を介してさまざまなつながりが生まれ、今では大勢のひとが集まるイベントも開催される場となっている。大きな変化だが、進藤さんは「自分が面白いと思うことをやってきたらこうなっただけ」と言う。

———面白いことをやっていると、環境ができてきちゃうところがありますよね。自分で発信していけば周りがついてくるんじゃないかって。

現在はSNSを宣伝に使っている店も多いが、進藤さんもTwitterInstagramそしてFacebookで発信している。以前と比べて通りがかりの客は減ったのだろうか。そう聞くと、意外な答えが返ってきた。

———口コミは結構ありますよね。住所は明かしていないんです。基本的には通りがかりに「なんだこの店は!? 」って入ってきてくれるのが僕としては一番うれしいんです。
そういう驚きって最近ないじゃないですか。みんなSNSを見てから「ここ面白そうだから行こうぜ!」って。昭和の時代はそういう店があったんですよね。「なんだこの店は!?」っていうような驚きのある。

確かにSNSができる前は、そんな店がまちやひとが出会うきっかけになっていた。ここはその楽しさを思い出させてくれるところでもある。実際、近くのマンションに越してきたひとが、レコードコンビニをきっかけにこのエリアで遊ぶようになったこともあるようだ。

———昔は一軒家がたくさんあって、下町っぽい感じはあったんですけど、今、もうないですからね。マンションが増えましたが、マンションに住んでるひとってそんなに地域というか、近所を出歩かないんですよね。近所で面白いとこ探そうっていう感じがない。けどたまに「人形町とかに行ってたけど森下のほうが面白いじゃん」ってうちの店に来るひとがいたりとか、「リズムアンドベタープレス」(後述)に行ったりとかね。
何かきっかけがないと、ないから。うちがやっているのも、レコードをきっかけにして活性化というか、近所のひとが集まる場所を提供できないかなっていう感じですよね。きっかけがないと入りにくいじゃないですか。

レコードコンビニは、レコード店ではない。コンビニに音楽があるからこそ、分け隔てなく、多くのひとが楽しめる場となっているのだろう。

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酒屋からコンビニに業態転換したのが1999年。ヤマザキショップは知名度は低いが、店側が休みを決められるなど、拘束が緩いことが決め手となって、進藤さんが兄とふたりで決めた / 気さくで、話しかけやすい進藤さんとお客さんはいい距離感。オリジナルグッズの制作、イベントなど面白いことを思いついては実現していく