アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#25
2015.01

工芸と三谷龍二

後編 生活工芸から、その先へ
8)工芸のゆくえ 生活工芸の振れ幅をしめす

瀬戸内生活工芸祭の第2回開催にあわせて、オフィシャルブック『生活工芸の時代』が刊行された。三谷さんを始め、作り手や繋ぎ手、デザイナー、研究者と生活工芸との距離もさまざまな13人が、生活工芸について語っている。生活工芸を持ち上げるような内容ではなく、とても客観的なものである。そこがいかにも生活工芸らしいと思うけれど、もうひとつ興味深いのは、いくつかのテクストが生活工芸とは何だったのか、と振り返るスタンスで書かれていることだろう。
三谷さんは「今の生活工芸は転換の時期」だという。いわく、2000年代に入って、人々の関心が生活に向かったところから、生活工芸はすでに始まっていた。生活に人びとの関心が向かったことで、もてはやされるようになる。工芸品を扱う雑貨店などが増え、クラフトフェアにいたっては、今や全国で100ヵ所以上と大変なブームになっている。
そのことに対して、三谷さんはとても冷静だ。

——クラフトフェアはここ数年、人気の上昇に伴い大衆化が進み、それに合わせて作家の意識も変わってきているように思う。百貨店でも作家のものを集めた企画が目立つようになった。この傾向はしばらく続くだろうと思うけれど、おそらくクラフトフェアは新しい才能が芽生える開かれた場として、登竜門的な役割を担っていくだろう。また一方で質の高い工芸を見る喜び、つくる喜びを表す場をつくっていくことが必要で、生活工芸祭のふたつの会場は、そんな組み合わせを視覚化しているのだろうと思う。
(生活工芸は)運動じゃないからね、始まりだってわからないし。(生活工芸を代表する作家は)ひとりひとりが自力でその道を、自分の場所で考えている。だから、考え方もずいぶん違う。でも、それぞれが自分の生活をカタチにしていくと、どこかで共通していることがある。あえていえば、それが時代になるのかもしれないけど。そもそも、個人から始まったことだから、個人で終わるんだよね。

トレンドとなったからには、その反動もあるかもしれない。ただそれで、生活工芸としてのものづくりがなくなってしまうわけではないのだ。

——ここしばらく、生活工芸の抑制的なものづくりの仕方が続いたけれど、これからは再び個性的なものをつくるひとが出てくるのかもしれない。でもその個性は何なのか。その僕なりの答えは、今回の女木島の展示にあった。ああいう個性だったらいいな、と。昔の前衛陶芸みたいな自己表現ではなくて。あそこにはいかないでほしいという願いはあります。
強い個性の表現というのは、見るひとにも、つくるひとにもわかりやすいんで、放っておけば、そっちにいくんですよ。でも、普通の茶碗をつくっても、魅力的なものとそうでないものがある。作家の力というのは、本来そういうものだと思うんです。本を出したのも、それを伝えたいというのが一番の理由だった。生活に重心を移すことで、工芸のことをどう考えたのかを伝えることで、(作家が)自分の個性をもう一度考え直すきっかけになったらいいんだけれど。

三谷さんは、生活工芸を盛り上げようというよりは、むしろ、生活工芸を軸にして振り返り、その振れ幅をしめすことで、来るべき時代の工芸につなげていこうとしていたのである。

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造形作家ナカオタカシさんの「海辺のいえ」。FRP素材が光を映して、表情が微妙に変わりゆく